運命の2択

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幸せの崩壊は突然訪れた。 私は目を覚ますといつも通り家事をこなし、朝食を用意した。いつもなら夫が、手伝ってくれたり、ハルと談笑したりしながら行うことなのだが、2人とも起きてくることはなかった。 私は心配になって、2人の様子を見に寝室へと向かった。2人はまだ寝ていた。呼吸も正常だし、身体に異変は感じられない。 私はこれがどう言う現象か知っている。 夫とハルが同時に感染病を患ったのだ。 その名も「ナイトメア病」。 その名の通り、悪夢を見続けるという病気である。感染しても身体に変化はないが、感染した状態で眠りにつくと起きることなく一生悪夢を見続けるという恐ろしい病気だ。去年の冬頃から欧州諸国で流行していたのをニュースで見ていたが、日本での感染者はまだ三桁に達していない。流行当初は難病だと騒がれたが、特効薬が開発されてからは、特効薬を飲みさえすれば完治することが分かったので警戒体制は解かれた。なので、夫とハルがこの病気に罹ったところで特効薬さえ処方して貰えれば何も問題ないので、私はそこまで焦っていなかった。夫とハルが眠ったままで動くことができないが、特効薬を貰うだけなら私一人で病院に行っても問題ないだろう。 ところが、いざ病院へ行って診察を受けると、医者は飄々とこう言った。 「すみません。特効薬の在庫があと1つしかなくて…。」 私は驚愕のあまり、言葉を失った。 「特効薬って日本じゃ作れないんですよ。ヨーロッパでしか生息してない生物を使って調合してるんです。だから、輸入するしかないんですよ。でも、それが高くて高くて。最近景気も悪いでしょう?お金勿体ないからってもう輸入することを辞めたそうなんですよ。」 医者は一切私に気遣いするような様子もなく、淡々と話を続けた。 「だから、もう1つしか残ってないんです。どちらに使用なさいますか?」 この医者は人の心はないのだろうか。 「ちょっと、待ってください。この病院に残り1つというだけですよね?」 「いえ、日本に残り1つです。」 は? ふてぶてしい態度で医者が面倒そうに対応してくるのが私の神経を逆撫でする。 「嘘言わないでくださいよ。そんなことあり得ないでしょう。」 「では、他をあたってもらえますか?どこに行ってももう特効薬はありませんよ。」 「分かりました。では、他をあたらせていただきます。」 二度と見たくもない顔だ。 私はその場を後にした。
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