運命の2択

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 別の病院に到着すると、違う医者に先程の医者と全く同じことを言われた。 「もうないんですよ。日本に特効薬。」 「おかしいでしょ。なんでないんですか?伝染病なんだから、誰か1人でも日本人で罹ったらどうするつもりなんですか?日本人全員悪夢を見続けることになるかもしれないんですよ。」 私の言っていることは間違っているだろうか。どう考えても日本で感染者が少ないから特効薬を輸入しないだなんて馬鹿げた話としか思えない。 「ぼくに言わないでくださいよ。国の決定なんで。」 医者が呆れるように言うのが腹立たしくて仕方ない。おかしい。私が知ってる医者はこんなにも人情に欠ける人たちじゃなかったはずだ。 「本当にどこにもないんですか?2個くらいはあるでしょう?」 「それがね。本当にないんですよ。あと一つしか。」 2人の医者が虚言を言い合っているのではないか、とも思ったがそれはあまりにもメリットを感じない。 本当に日本に特効薬があと一つしかないのか…。 「じゃあ、私はどうしたらいいんですか?」 「まあ、どちらかに使用していただくことになりますね。どちらに使うかは貴方にお任せしますよ。」 どちらか…? 夫とハル…どちらかは助かり、どちらかは悪夢を見続けることになるってこと? 「でも、この病気って伝染病なんですよね?じゃあ、薬を使用しなかった方の病気が原因で他の人に感染する可能性ってありますよね。どうするんですか?」 これは脅迫にも似た質問でもある。どちらも治さなきゃ国民全体に危害が及ぶぞ、なんとかしろというメッセージを含んでいる。 「やだな、奥さん。言わせないでくださいよ。」 医者が急にニヤニヤしながら声高にそう言った。 背筋が凍るほどその様子は不気味だった。 医者はニヤニヤしたまま、小声でこう言った。 「薬を使用しない方は処分するんですよ。」
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