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私はきつね顔の医者のところに戻ってきていた。私の選択を伝えるためだ。
「決めたんですか?どちらに特効薬を使用するのか。」
「その前に、私の考えを聞いていただけますか?」
私は話さなければならない。医者に説明するためではない。自分を納得させるため、決断を下すためだ。
「どうぞ。」
医者は相変わらず、無表情で対応した。
「おかしいんですよ。今日ずっと。まず、医者がおかしいです。医者の態度が3人とも全員。私の知ってる医者はもっと患者さんに寄り添った素晴らしい人たちです。さらに、日本には感染者が少ないから、という理由で特効薬を輸入することをやめたという信じ難い事実。そして、追い討ちをかけるように世界中から特効薬を入手する方法がなくなった。また、“処分“だなんて今の日本じゃあり得ない。法律違反だし、権力で揉み消せるレベルじゃない。あり得ないことが多すぎるんです。今日に限って。まるで、“ずっと悪夢を見ているように“。あまりにも私にとって都合が悪いように不幸なことが起こり続けるのです。そのきっかけはなんだったか、私は考えてみたんです。それは、私がヨーロッパに行ったこと、だと考えました。そう、私は今『ナイトメア病』に罹っていて悪夢を見ているのだと思います。私しかヨーロッパに行ってないのに夫と息子だけ発症するのもおかしいと思ったんです。」
だから…
「特効薬は夫でも子供でもなく“私に“使ってください。」
「貴方がそれでいいのなら。」
医者は特効薬を取りに行くからしばらく待つよう言った。
これで全てが終わる。
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