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やや不安そうにこちらの様子を伺っている彼女を安心させるように、にこりと笑いながら私は声をかける。
「ただいま、真澄ちゃん。
実験の結果はどうだったかしら?」
私は人間の潜在意識に関する研究をしていて、現在開発している薬は、人間の意識の奥に眠っている人格を引っ張り出すというものだ。
成功していれば、私は別人格の際の記憶を保持できないため、
薬を服用後の経過観察を彼女にお願いしていた。
ただし、薬を服用した後にどの人格が現れるかは予測ができないため、
彼女は今の私の人格が誰か分からず困っていたのだろう。
そこで今の人格が私であると分かるよう私が声をかけると、彼女は安心したように緊張した表情を緩めた。
「先輩、おかえりなさい!
もー、ずっと黙ってるからどうしようかと思うじゃないですか!
心臓に悪いんですからね!あんまり意地悪しないでくださいよー。」
相手が私だと分かると安心したのか、彼女は途端に饒舌になる。
先ほどまでは借りて来た猫のように静かだったのが嘘のように、すっかりいつも通りのお喋り好きな彼女だ。
「はいはい。大変な役目を任せちゃってごめんね。
いつもありがとう、真澄ちゃん。」
私はわざと頬を膨らませている彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。
それに満足したらしい彼女は、「そういえば」とコロリと話題を変えた。
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