計画肝試し

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計画肝試し

「なぁ、今日ここいかねぇ?」 灼熱の炎天下の中で 身体中の汗が吹き出して 今にも溶けてしまいそうなほど 顔が歪みまくった 聡が自身のスマホに ある建物の画像を表示させて 僕に見せてきた。 「もう夏も佳境だしさ、夏といえばやっぱり肝試しじゃん?」 その画像を見て 聡とは違う意味で顔を引きつる僕と 対象的に 無邪気な笑みを浮かべる聡。 太陽の明るい陽が差しているせいで より一層子供っぽく見える。 「やめようよ、子供じゃあるまいし」 「やい、怖いのかよ」 「そうじゃないけど」 そう言ったものの怖くないというのは嘘だ。 実際は写真を目にしただけでも 首筋辺りにひんやりとしたものを感じる。 "東病院" かつては地元の人達に 困ったらあの病院に行けば 何でも治療してくれると 患者さん一人ひとりに 寄り添う 患者ファーストの 診療スタイルで信頼されて 常に病院は混雑しているほどだった。 だがある日 盛況だった病院に黒い影が出てくる。 "副病院長"が違法脱税していると 地元民の間で噂され騒がれ始めた。 「いつも気さくに声かけてくれたのにねぇ」 「人は見かけによらないわね」 「1番怖いのは人間だよね」 病院に足を運ぶと 待合室では暇を持て余した おばちゃんたちが 井戸端会議を開催し そのそばを通り過ぎる 看護師さん達が 眉に皺を寄せながら 形見狭そうに歩いている。 中には直接看護師さんを捕まえて 「ねぇ、脱税ってホントなの?」 とまるで どこかの週刊記者のように 目をギラギラに輝かせながら 真偽を掘りだそうとする リテラシー外れた行動を取る 老婆も見られ 事を急激に荒げていった。 日が経つごとに 病院内で溢れかえっていた 患者の波は収まり始め 噂が立って早2ヶ月で 病棟内はとうとう従業員しか 居なくなってしまい 病院長はその緊急事態に危機感を感じたのか 負の元凶である 副病院長を解雇処分にした。 解雇宣言を受けた 副病院長は 突きつけられた現実に 打ちひしがれるように その場に膝から崩れ落ち 「私じゃない!私は何もやってない!」 自分が無実であることを 強く訴えるように 涙を流し鼻水を垂らし トレードマークである 黒縁眼鏡のフレームとレンズは 汚水まみれの水玉模様に変わっていった。 「みすぼらしい真似はやめてくれ!」 しっしと ハエを払う手付きで かつての側近で信頼を置いていた 人間を容赦なく切り捨てた 病院長。 その残酷で非情でも 経営者としては 賢明な裁きを下した 東 吾郎 の 病院を守る為の覚悟を 傍から見ていた 秘書の僕は 自身の生活を閏す為に リッチになるために そして積年の恨みを晴らす為に…… 全ての計画が思い通りに進む光景に 鳥肌が立ち 自分が優秀で、頭が切れて 計算高くて、合理的な 完璧な性格に我ながら惚れ惚れし 気分は天下の大将軍気分だった。 病院長に脱税計画を提案した時は すぐさま却下され 話など聞いてもらえなかったが 金は2人で折半しましょう? いや、病院長が8割 私が2割の報酬で構いませんから どうでしょう? もっと資産を増やしませんか? 甘い言葉を投げかけると 病院長は悪くないな よし!協力しよう!お前に協力するのは 最初で最後だ! とまんまと ハニートラップに引っ掛かってくれた。 不正な脱税で得た取り分など 僕一人で占領して 実行犯はただ1人 病院長。 秘書の私はそこに巻き込まれた被害者だと いう構図を描いているのに。 阿呆すぎて笑えてくる。 そんな僕の完璧犯罪が 成立した そして国の法に触れた場所を 再度訪問するなんて 気色が悪い。 いや……逆に好都合かもしれない。 この脳天気な奴に 今まで重ねた罪の数々を なすりつけられる 絶好のチャンスが転がりこんできたんだ。 じゃあ掴むしかないだろう。 「いややっぱり……行こう、夏だしな」 「そうだよ!そうこなくっちゃ!」 聡はこれから自分が 犯罪者に仕立て上げられるとも露知らず 陽の目をたくさんに浴びるなかで 目を細めてはにかんだ。
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