殺め方

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殺め方

まさか、2度も 忌々しい場所に足を運ぶ事になるとは 夢にも思わないな。 皮肉にも病院長や副病院長達の 怨念が頑固にこびりついている所へ 友達だった人と歩幅を揃えて歩いているのが不思議で仕方なかった。 辺りが闇に染まり スマホのライトを照らしながら 道を確認しつつ 「取り憑かれんなよ!」 「塩振ってきたか?」 無邪気に心霊スポットだと 思い込んでべちゃくちゃ喋りまくる 聡の姿は馬鹿馬鹿しくて こちらが笑いをこらえるのに必死だった。 「ちゃんとお清めはしてきたよ」 僕の企てが怪しまれないように いや……勘付かれるなんて ほぼ無いに等しいが念には念を入れることを 怠るな。 最初に人を殺めたときは 病院長だった。 病院長は 脱税の共犯者だというのに 「私は逮捕されないよな」 「私は世には出ないよな」 自らの保身の事ばかり 考えて 口を開けば心配事を尋ねることしか 言わない無能者だったから 病院長が気を抜いて 帰る支度をしている瞬間を狙い 手に持っていたトンカチを 後頭部めがけて振り下ろした。 幸い病院長がほぼほぼ業務時間内は 一人個室の特別室に腰掛けていたおかげで 少数人にしか現場を見られずに済んだのは 幸運だった。 その後は魂の抜け殻となった身体に 濃アルカリ性の成分100%の 透明な液を上からかけた。 豚肉を生姜焼きのタレにつけるみたいに ドボドボと満面なく浸した。 すると徐々に病院長の皮膚は 陽を浴びすぎて 黒澄んだ皮膚は面白いように 化学反応を起こして液状化していき 3分も経った頃には ミネラル天然水のように サラサラとした液体へと変化していった。 目も髪も口も鼻も さっきまで形を保っていたものが ムンクの叫びのように 人としての何かが 歪にひしゃげながら アルカリ性の水分と同化するように 敷いてあった高級絨毯に吸収されていく。 高級が故に吸水率も凄く またたく間に魂の抜け殻は この世から姿を消し 絨毯の繊維の一つへ輪廻転生した。 眉にまでせり上がってきた 薬品独有のアルコールのようなキツイ匂いと 屍を溶かした際に発生した 焼け焦げるような火を近くに感じさせる 臭い匂いが混ざりあい 脳みそを揺らぐほど 強い刺激臭となって嗅覚をバグらせる。 思わず身体の底から込み上げてくる 逆流する液体汚物を堪えることが出来ず 足元に置いてあった小型のゴミ箱を すぐさま手に取り 中に顔を突っ込んで 声にならない音と共に 吐瀉物を物凄い勢いで吐き出した。 吐き終わってもなお 酸っぱい匂いがツンと鼻に刺さる 透明な胃液がだらりと口から垂れ続ける。 その動向を寄り目になりながら 凝視していると ゴミ箱の中に一枚の紙切れが 目に入ってきた。 汚物にまみれて 一部の文章しか読むことが出来なかったが それでも確かに確認ができた。 【出頭して全て話す】 僕はその裏切りの言葉が遺された 紙切れを極力自分が吐き出した汚物に 触れないように 親指と人差し指で つまむようにして取り出し 絨毯に向かって投げつけた。 「フッ……くだらないことしようとして」 病院長に向けて最後の言葉を 呆れるような口調で切り メモに目掛けて再度 濃アルカリ性の透明液体薬品を ドボドボと 中身が無くなるまで流し続けた。
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