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須弥の指輪
バキッ
暗闇に、鈍い音が響いた。
「あ、あれ? い、痛くない」
「だろ?」
バキッいう鈍い音を立てて折れたのは、竹刀の方だった。
「え、何? なんで? 私、あなたに殴られたと思ったのに」
「……それが、その指輪の力さ」
「指輪の、力?」
朱美は、慌てて自分の左手薬指の指輪をじっと見た。朱色のはずの宝石が、紅蓮の炎の様に輝いている。
「その指輪は、我々『シュメール人』一族に代々伝わる『須弥の指輪』というのさ。我々が身に付ければ、護身の指輪になるのだが、それをただの人間が身に着けると……」
朱美は、何のことだかさっぱり分からなかった。
「ちょ、ちょっと待って。そんなラノベの様な事を急に言われても困るだけだわ」
指輪を撫でながら、朱美はボソボソと言った。青天の霹靂とは、まさにこの事だろう。
情報量が多すぎて、整理が追い付かない。
「まあ、早い話が、その指輪を身に着けてると、君は化物になってしまうのさ。そもそも、竹刀で殴られて平気になってること自体、化物だろ?」
化物―。朱美の脳裏に、吸血鬼や狼男がよぎった。
住留の言う事は、漫画じみているが、竹刀で思い切り殴られて平気なのは尋常な事ではない。ただ、その竹刀を確かめてみないと気が済まない。
「見せてみて」
手に取ると、意外にずっしりと重かった。
真ん中から、竹刀の竹がポッキリと折れている。同時に、自分の頭を触ってみた。
心なしか、少し腫れているだけで、痛くも何ともない。
「分かったか? これは人間が持っていていい物じゃない」
「人間って、あなただって人間でしょ?」
朱美の頭の中は、ハテナマーク一色だったが、取りあえず、分かる範囲で会話を続けることにした。
「ん、まあそうだけどさ。ちぃーっと違うんだよなぁ。何つーのかな、人間の兄弟? ちょっと強い人間、みたいな」
そしてしばらく、朱美は住留から情報を引き出すことに専念した。
その結果、信じがたい事が眼の前の男の口から、次から次へと出て来た。
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