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プロポーズ
「この指輪を受け取ってほしい」
雪がちらつく2月14日、東京・麻布の三ツ星レストラン。濃紺のスーツに身を包んだ男は眼を細めてビロードのケースを取り出した。男の髪はきっちりと分けられ、威厳だけでなく清潔感もあった。
真っ白なクロスに覆われたテーブルの上には、赤い葡萄酒のグラスが、ディナーを待っていた。
大きく開いた窓からは、ビル群が放つ夜の灯が、光り輝く指輪の如くきらめいていた。
「ホント? ホントに良いの?」
朱美は、男が懐から取り出した金色の指輪を手に取った。
朱美の背丈は165センチで、それほど高くない。しかし、肉付きが良く、少し釣り目の二重はパッチリとしていて、年に似合わぬ八重歯のギャップが、何とも言えぬ独特な魅力があった。さらに、グラマラスなその胸元に引き付けられない男はいなかった。
「良いとも。これは、僕たちの婚約の印さ」
「こ、婚約……。藍人(あいと)さん。嬉しいわ、ありがとう!」
男は、藍人と言った。朱美は眼を細めて男の両手を握った。既に男女の関係にあるのは明白だった。ニッと口角をあげた男の口元には、白い歯が並んで光った。
「それと、突然なんだけれど……。式場を用意してある。3日後なんだ。開けておいてほしい」
藍人は、スッと二つ折りのベージュの厚紙をテーブルの上に置いた。
それは唐突な申し出だった。友人とランチに行く用事が頭をよぎったが、朱美はその二つの重要性を天秤にかけて、一も二もなく、承諾した。
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