HIS TURN

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HIS TURN

 老人の謎かけのような物言いに、僕は考えを巡らせていた。  彼は、喜び、平穏を得た兄貴のことを眺めて微笑ましく思っていたわけではなかったのか。  ただ命を脅かされながら、戦火をかいくぐり日々を必死に生きていた生前を思えば、その名の通り、天国である。  老人が何も言わなければ、自分は何も思わなかっただろう。  ぽつんと生じた胸の一点の曇りが、しだいに大きく広がっていく。
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