MY TURN

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MY TURN

 緩やかな風が俺の鼻をくすぐった。  柔らかで温かいものが横たわる俺の顔や首を包むように、優しく支えている。  薄く目を開けると、小鳥がさえずる、背丈の低い草花がずっと向こうまで続く風光明媚な景色が広がっていた。  思わず、誰ともなく口にした。 「俺は助かったのか?」  辺りに目を走らせても、春めいた陽の照らす草原しか見えない。 「ここはどこだ?」  すると、頭の上の方で涼しげな女の声がした。 「あなた方が“あの世“と、呼んでいるところよ」  声のする方へ顔を向けて初めて俺は、女に膝枕されていることに気づいた。  彼女は、やや大人びた顔だちで、柔和な笑顔を浮かべている。 「なに? つまり、ここは天国なのか?」 「そうね。そう呼ぶ人もいるわ」  いつまでも知らない女の膝で世話になるのは気が引けた。  俺は頭を浮かせて身体を起こす。  が、女は変わらず穏やかな表情で問うた。 「どうなさる?」 「何を、だ?」 「水浴びなさる? それとも、お酒がいいかしら? ここは食べるものなら、いつでも何でもあるわ」  俺は、大勢の人間たちに、長く命を狙われ脅かされてきた。  身も心も落ち着いたせいか、気がつけば女の身体が恋しくなっている。  俺は半分冗談で、半分本気で言ってみた。 「君がいい、と言ったら?」  女は短く笑い声を立てた。 「あら? この私を口説いて、どうしたいの?」  俺は、目をそらさずに言葉を被せた。 「決まってるだろう?」  彼女は表情一つ変えずにいたが、やがて頷いた。
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