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#1  私は、23歳になっていた。  13歳から、ずっと引きこもりを続けて来た。    この10年、いろいろなことがあった。  閉じた空間ではあるけれど、それなりにドラマはあるものだ。  トップニュースは、私が17歳の時に両親が離婚したこと。  薄々感じていたことだから驚きはしなかった。  そもそも父はいないも同然の人なのだし、家族らしさなんてこれっぽっちもなかったから、離婚すると聞かされた時も、「そうなんだ」と言っただけだった。  野々宮家ニュース第2位!  母に、好きな男ができたこと。  しかも、結婚を前提に。  娘の私が言うのもなんだが、母は美人だ。セクシーで知的で、いい女だ。独身になった母を世の男性が口説きにかかるのはよくわかる。  こりゃ再婚するな、と思った。  私の直感は見事に的中。  ある夜、久しぶりに早く帰って来た母は、箸のすすまない料理を作り、私と食卓で向き合い、こう言った。 「あのね、ちょっと言いにくいんだけどさ。ママ、再婚しようかなと思ってるのよ」  なんの料理かわからないものを口に入れながら私は言った。 「どうぞ、末長くお幸せに」 「その方ね、この家で暮らすの」 「・・・どういうこと?」 「だって家族になるんだから」 「ホームレスなの」  私の言葉に母は驚いた顔をした後、笑い出した。 「まさか。ワンルームの狭いマンション暮らしだから、家族3人では住めないでしょ。だからここで暮らすのよ」  知らないオヤジがこの家に入り込んで、一緒に暮らす。  あり得ないあり得なあり得ない。  この家は私のユートピアなのに。  しかし、そのことについて母と話し合うのはおそらく無意味だ。  母と私がわかり合おうとするには、すでに私たちは、あまりに遠い場所に立っていたからだ。
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