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#2
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私にできることは限られていた。
この家を、出ることだ。
一人立ちではない。家出だ。
家出はかっこいい。引きこもりからの家出。
そのギャップがイケてる。
もちろん、母に対する当てつけもなくはない。捜索願を出すかもしれないが、母が慌てふためいている様子を想像するのは心地よかった。
「そうた、シャバへ行こう」
そう、決断はした。
しかし、私は10年も外に出ていないのだ。シャバは魑魅魍魎のいる怖しいところと聞く。
そんなところへ行く勇気が私にあるのか。武器もなく、味方もなく、あてもないシャバ・・・。
そんな時、偶然ネットである通販サイトに目が止まったった。
着ぐるみの専門店だ。
これだ!と思った。
着ぐるみを着ていたら、誰も私とわからないし、何より着ぐるみは喋らなくていい。私のヘンテコリンな声は小学校から変わっていない。
着ぐるみは喋らない。
数日後、パンダの着ぐるみが仰々しい箱に入って届いた。
さっそく着てみる。
頭部と体と足の3つに分かれている。頭部は発泡スチロール、胴体はフリースだ。
サイズはジャスト。着心地も悪くない。ただ、着ぐるみの頭を被って気づいた。パンダの頭の中は真っ暗で、外を見るには、メッシュになった目の部分から見るというものだった。
これがなかなか見にくい。視野の狭さが不安を抱かせる。
私は等身大の鏡の前で不慣れなポーズをとってみる。
「可愛い!」
音楽をかけて踊ってみる。
「めっちゃ可愛い!」
私は、着ぐるみバカになりかけていた。
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