#4

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#4  私はひたすら逃げた。和葉ちゃんから。過去から。  角を曲がり、一瞬、安心したその直後だった。それが起きたのは。  キキキキキーッ!!  甲高い急ブレーキの音とほぼ同時に、私の腰の辺りに何かがぶつかる衝撃と、激痛が走った。  私はもんどり打って地面に倒れた。 「うっ!」  何が起こったのかすぐにはわからなかった。  痛みとショックで息ができない。パンダの頭もズレ、前がまったく見えないのもパニックだった。  暗闇の中で状況を把握しようとパンダの頭をズラしながら、冷静になろうとした。  若い男性の声がする。 「大丈夫ですか!」  私の肩に手が置かれる。どうやら助けようとしているようだ。 「ケガしてないですか」  あちこち痛かったが、私は頭を振って否定した。人と関わりたくなかった。片手を顔の前でヒラヒラさせ、大丈夫だとゼスチャーして伝える。  男性は続けた。 「急に角から出て来たんで、自転車のブレーキはかけたけど、間に合わなかった。お仕事中ですか」  私はやっと正常な呼吸を取り戻し、深く深呼吸しながら頑張って大きく頷く。 「いまチラシ拾って来ます」  どうやら倒れた時にチラシを手から離してしまったようだ。それで仕事中ですかと言ったんだとわかった。 「たぶん全部拾ったと思いますけど、立てますか」  私は頷き、暗闇の中でとにかくまず視覚を確保しようとパンダ頭を両手で挟んで必死に調整する。  見えた。  その瞬間、心臓が止まるかと思った。  目の前に、イケメンが心配そうに私を見ていた。イケメンだから驚いたんじゃない。  彼を私は知っていたからだ。  間違いない。  溝口コウタ君。  小学校の時のクラスメイトであり、私の初恋の人。  だから、すぐにわかった。 「救急車呼びます。すごく痛そうだし、俺、責任あるから」  私は手を動かして、何か書くものはないかとゼスチャーをしてみせる。 「え、なに、書くもの?ありますけど」  私の手にボールペンらしきものと、ノートが手渡された。 『全日本着ぐるみ協会の規定で、私は声を出せません。救急車は必要ありませんので、ご心配なく』  ノートを読んだコウタが神妙な顔をする。 「全日本着ぐるみ協会・・・。」  その後、コウタ君の間で、救急車を呼ぶ呼ばないのやり取りが続き、結局、呼ばないことになった。  そして私は救急車より、ずっと素敵な乗り物に乗ることになった。
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