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其ノ弐:鬼ヶ島
――空の旅は快調だった。
前回鬼ヶ島へ向かったときには、家来であった犬猿雉もこれほどの異能を操れた訳ではなかった。この百年の月日が、家来であった者たちを神格化させ、名実ともに伝説の存在へと昇華させたのだ。
それだけに今回、桃太郎は一切の不安を感じていなかった。前回はといえば船に揺られながら「何名が生きて共に帰れるか」なんてことを粛々と考えていた。自分以外の者の力を信頼しきれていなかったのだ。
桃太郎はそんなことを思い出しながら、小さく笑みを浮かべた。
それが今となっては桃太郎の力など地味に映ってしまう。それほどまでに力を付けた三者を誇らしく感じたのだった。
「――桃ちゃん、前方、例の霧よ」
「だな。この『まやかしの霧』で外界から身を隠してやがるんだ。前回は素直に数日かけて抜けはしたが……」
「今回は空路よ。律儀にお付き合いしなくてもいいんじゃない?」
「この霧、ぶっ飛ばして行けるってことか?」
「当然」
「……マジでチートだろこのクソ雉」
「猿はスカイダイビングしたいのね?」
「いや違います。すみません続けて下さい」
キサラは羽を大きく広げると、
「揺れるから、しっかり掴まっていてね!」
と発し、次の瞬間、翼を団扇のようにして前方を大きくひと扇ぎした。
凄まじい突風が一直線に進み、その道筋の霧を払っていく。露わになった波間を辿った遥か遠くには、小さく緑色の大地が見え隠れしていた。
「おお! あったあった、鬼ヶ島だ」
「キーちゃん、やばいね、神ってるね」
「ありがと」
(反則だろこのチート雉)
「猿、何か言った? ダイブするの?」
「し、しないっす! さあ行きましょう、懐かしの鬼ヶ島へ!」
「そうだぜ、霧が晴れている間に行っちまおう! ショウマを落とすのはそれからでも良いだろう」
「いや桃さん! よくねーっすよ!」
キサラは桃太郎の言葉に頷くと、スピードを上げて霧の隙間に向かって飛び始めたのだった。
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