其ノ壱:百年後

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「――頼もう、頼もう! 美作守(みまさかのかみ)・桃太郎殿はご在宅か!?」  甲冑を身にまとった男が、馬上から大声で呼びかける。そのような声量がなくとも、静寂が支配するこの山中の小屋ならば、声は易易(やすやす)と届くだろう。しかし甲冑の男は続け様に叫ぶ。 「桃太郎殿! 言伝(ことづて)がござる! 我は尾張国(おわりのくに)、織田からの使者にござる!」 「……うっせえな。そんなに声を張り上げる必要あんめえよ」  どうやってこのあばら家に収まっていたか不思議な程、大柄な身体を屈めながら、桃太郎が姿を現した。  二十歳そこそこにしか見えない風貌はいくらか凛々しくはあるが、無精髭と散切り頭が、彼の英雄たる神々しさを阻害していた。 「おお桃太郎殿! 逞しき御身(おんみ)、お目にかかれて光栄にございます!」 「よせやい。おべんちゃらなんざ効果ないぜ。織田の使者と言ったか?」 「左様にございます」 「帰りな。俺は戦の手助けなんざする気はねえよ」  眼光鋭く発した桃太郎に、織田の使者も鼻白んだ様子を見せる。  しかし自分の使命が故か、もしくはこれに失敗した時の代償が故か、使者の男は引かずに言葉を返す。 「お待ち下さい、何も戦に駆り出すとは言っておりませぬ。桃太郎殿と和睦を結びたく、参った次第にございます!」  桃太郎は腕組みしながらせせら笑う。 「和睦だあ? そうやって『仲間』だと言いふらし、俺の影響力でもってまた力を振るうだけだろうが。それは戦に駆り出すのと同義だろうよ」 「そうではございません! 信長様はこの乱世を終わらせるべく、桃太郎殿の影響力をお借りしたく――」  必死に食らいつく使者の言葉を遮って、桃太郎は一蹴した。 「確かに乱世なんざクソ喰らえだ。でも力で終わらせるのならば、そのクソの一員だということを、努努(ゆめゆめ)忘れるな! さあ帰れ!!!」  これには織田の使者も返す言葉も無く閉口した。  その威圧感に使者の乗った馬が恐怖に(いなな)き、慌てたように馬上の使者を振り乱しながら、走り去って行った。
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