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「うっわあ! 桃さん辛辣ぅー!」
桃太郎の頭上の木の枝から、ひょうきんな声が響く。桃太郎は呆れたように息を吐くと、声の主へ言葉を返す。
「……ショウマよ、聞いていたんなら助け舟の一つでも出せ」
「そんな訳にいかないっすよ、こんな見世物! 先週は毛利、今週に入ってからは小早川に織田ですよ! いやあ桃さん大人気!」
「おい早く下りてこい、猿の干物にしてやんよ」
桃太郎が一喝すると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、人ならぬ手際で大木から滑り下りてくる者の姿があった。
ショウマと呼ばれたのは、桃太郎と共に鬼を討伐した仲間の「猿」であった。猿にしてはその身体は大きく、体毛の上から派手な衣を纏っている。何より人語を自在に操るその言動は人間に近い。巷では『桃太郎配下・賢猿のショウマ』の名で知られた存在であった。
「冗談っすよ、冗談。桃さん怒らないで」
「こっちは無粋な客ばっかで苛立ってんだ、冗談なんざ通じんぞ」
「まあ、そうっすね。どこを見に行っても戦、戦で。人間はどうしちまったんですかねえ」
露骨に調子を合わせてきたショウマを横目で睨みながらも、桃太郎は遠くを見るように目を細めながら大きく頷いた。
「……本当に、その通りだな」
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