其ノ壱:百年後

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「――人! ご主人!」  いつの間にか桃太郎の傍らに、白く大きな犬が腰掛けていた。必死に尻尾を振りながら、桃太郎の名を呼んでいる。 「! お、おう、ヤイバじゃねえか。来てたのか」 「ご主人、考え事? なんか悲しい感じの『色』が出てたよ」 「そうか。そうかも知れないな」 「かもじゃないよ、僕の『色彩感覚』に外れなしだもん!」  そう得意げに発すると、ヤイバと呼ばれた白犬は桃太郎の周りをクルクルと駆け回った。この犬こそが桃太郎と共に鬼を退治した「犬」である。  大きな身体に美しい白銀の体毛を称え、ショウマ同様に人語を操る。巷では『桃太郎配下・犬神(いぬがみ)ヤイバ』の名で知られた存在であった。  犬神という大それた二つ名で呼ばれてはいたが、愛くるしい大きな黒目に人懐っこい性格で、人々からも畏れられるでなく可愛がられるマスコットのような存在であった。 「……ヤイバ、この国の人々を見て回ったお前に問う。この国はどんな『色』だった?」 「うーん、そうだねえ。『苦しみの色』『憎しみの色』、あんまり見ていて気持ちの良い色が無いって感じかなあ」  この問いかけにはヤイバも尻尾を丸めて残念そうに返した。  桃太郎の家来として旅をした仲間たちは、それぞれ『特質技能』と呼ばれる異能の力を有していた。ヤイバの場合、それは『色彩感覚』と呼ばれる技能で、人や物に宿る感情を『色』として視認出来るという能力であった。  その異能の力を持ってして、今、この国には『苦しみ』『憎しみ』が溢れているということだった。桃太郎は、より疑念を深めてしまった。
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