14人が本棚に入れています
本棚に追加
桃太郎は「よし」と一声発すると、自身の髪の毛を一本抜き取った。
その抜き取った毛はみるみるうちに形を変えていき、一枚の桃の葉へと姿を変えた。
今度は指先に持ったその桃の葉を、腕ごとブンと振り上げると、その葉が一瞬のうちに巨大化する。葉は巨大な太刀のように変形し、葉先は鋭利な刃へと変貌した。
「おお! 桃さんの『大太刀・桃の刃』、久々に見るっすねえ!」
「ご主人、カコイイ!」
桃太郎は振り上げた『大太刀・桃の刃』をそのまま眼の前の大木へと振り下ろした。すると、力強く立っていた樹木は真っ二つに裂け、轟音と共に左右に倒れていく。
「うっし。こいつを削って、船にでもすっか」
「うわあ! ご主人ノープランでカコイイ!」
「船用!? 船用の木っすか!?」
桃太郎が毛をもう一本抜き、今度は工作用の『小太刀』を作らんとしていると、三者の頭上から美しい声が降り注いだ。
「船なんて、必要ないわ――」
見上げると、そこには太陽を受け七色に輝く、大きな鳥の姿があった。ひとつ羽ばたくごとに周囲の光を屈折させ、あたりを万華鏡のように幻想的に照らした。
「――キサラか、久しいな」
桃太郎がそう発すると、浮遊した鳥の姿が次第に霞んでいき、次の瞬間ふっと消え失せた。それと同時に桃太郎の目の前に、美しい女性が姿を現していた。
「桃ちゃん、海路なんて不要よ。私の背に乗っていけば早いわ」
「考えてみりゃそうだな。それよかキサラ、ヒト型も様になっているじゃねえか」
「ふふ。可愛い?」
「ああ、べっぴんさんだ。誰も元が雉だとは思うめえよ」
キサラと呼ばれた和装の女性は、照れくさそうにはにかんだ。
この女性、もとい宙を舞っていた巨鳥こそが桃太郎と共に鬼を退治した「雉」である。巷では『桃太郎配下・霊鳥キサラ』の名で知られた存在である。
他の二者同様に人語を操るのは勿論、その華美で艷やかな羽毛は見るものを幻惑し、姿形を変化させる力を持っていた。ヒト型を為しているのも、その力を応用してのものだった。
最初のコメントを投稿しよう!