其ノ壱:百年後

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 桃太郎とキサラの会話を聞き、すぐにヤイバが駆け寄っていく。 「キーちゃん、なにその姿、可愛いね」 「あらヤイバ、ありがとう。最近『変化(へんげ)』を会得したの」  キサラはそう言いながら、今度はヤイバと同じような白い犬へと身体を変化させた。それを見たショウマが吐き捨てるように言う。 「お前めっちゃ異能あってズルくね?」 「あなたのように人語を操る程度の異能だと、さぞ私のチカラが妬ましいでしょうね」 「ンだとこの野郎!?」  今にも掴み合いを始めそうな勢いで睨み合うキサラ(犬の姿)とショウマ。この光景を物陰から見ていた狩人が、後に『犬と猿は仲が悪い』という通説を流布したという話があるとか、ないとか。 「おいお前ら、喧嘩してねえで本題と行こうぜ。せっかく久方ぶりに全員が揃ったんだからよ」  桃太郎が諫めると、ようやく二者共にむき出した牙を隠し、落ち着いた表情を繕った。キサラは女性の姿に再度変化した。どうやらこの姿を痛く気に入っているらしい。その艷やかな唇が動く。 「それで桃ちゃん、鬼ヶ島に行く前に、はある?」 「そうだな……まずはこの家の場所は『記憶』しといてくれ」 「了解」  キサラはゆっくりと、一度だけ瞬きをした。そして口を開く。 「今『記憶』したわ。【上】に記憶したからね」 「ありがとな。その異能は本当に便利だ」  桃太郎に褒められキサラが気を良くしていると、ショウマがずいと身を寄せて突っかかる。 「おい変態化けキジ女、鬼ヶ島って『記憶』に残ってないのか?」 「何よエテ公、百年も前のやつを取っておくわけ無いでしょ?」 「無いのかよ、つっかえねえなあ! そうですよね、桃さん!?」 「いや別に」 「ほら! エテ公、桃ちゃんだって私の味方よ! 使えないのは人語無駄イキリ猿の方でしょうが!」 「ンだとこの野郎!?」  ショウマが口角を突き上げ牙で威嚇すると、キサラもまた身体を犬の姿に変化させて、牙をむき出して応戦した。 「いやキーちゃん、犬の姿やめてよ、風評被害だよ」  ヤイバは呆れたようにその場に座り込み、天に向かってワオンとひと鳴きするのであった。
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