14人が本棚に入れています
本棚に追加
桃太郎とキサラの会話を聞き、すぐにヤイバが駆け寄っていく。
「キーちゃん、なにその姿、可愛いね」
「あらヤイバ、ありがとう。最近『変化』を会得したの」
キサラはそう言いながら、今度はヤイバと同じような白い犬へと身体を変化させた。それを見たショウマが吐き捨てるように言う。
「お前めっちゃ異能あってズルくね?」
「あなたのように人語を操る程度の異能だと、さぞ私のチカラが妬ましいでしょうね」
「ンだとこの野郎!?」
今にも掴み合いを始めそうな勢いで睨み合うキサラ(犬の姿)とショウマ。この光景を物陰から見ていた狩人が、後に『犬と猿は仲が悪い』という通説を流布したという話があるとか、ないとか。
「おいお前ら、喧嘩してねえで本題と行こうぜ。せっかく久方ぶりに全員が揃ったんだからよ」
桃太郎が諫めると、ようやく二者共にむき出した牙を隠し、落ち着いた表情を繕った。キサラは女性の姿に再度変化した。どうやらこの姿を痛く気に入っているらしい。その艷やかな唇が動く。
「それで桃ちゃん、鬼ヶ島に行く前に、覚えておく所はある?」
「そうだな……まずはこの家の場所は『記憶』しといてくれ」
「了解」
キサラはゆっくりと、一度だけ瞬きをした。そして口を開く。
「今『記憶』したわ。【上】に記憶したからね」
「ありがとな。その異能は本当に便利だ」
桃太郎に褒められキサラが気を良くしていると、ショウマがずいと身を寄せて突っかかる。
「おい変態化けキジ女、鬼ヶ島って『記憶』に残ってないのか?」
「何よエテ公、百年も前のやつを取っておくわけ無いでしょ?」
「無いのかよ、つっかえねえなあ! そうですよね、桃さん!?」
「いや別に」
「ほら! エテ公、桃ちゃんだって私の味方よ! 使えないのは人語無駄イキリ猿の方でしょうが!」
「ンだとこの野郎!?」
ショウマが口角を突き上げ牙で威嚇すると、キサラもまた身体を犬の姿に変化させて、牙をむき出して応戦した。
「いやキーちゃん、犬の姿やめてよ、風評被害だよ」
ヤイバは呆れたようにその場に座り込み、天に向かってワオンとひと鳴きするのであった。
最初のコメントを投稿しよう!