其ノ壱:百年後

9/9
前へ
/39ページ
次へ
 霊鳥・キサラには、桃太郎配下の中でも特に優れた特質技能があった。  それは『記憶』した場所へと瞬時に移動することが出来る異能であり、『記憶』さえしておけば、その地点を瞬時に往来可能となる破格の性能を誇る。  制限事項としては、覚えておけるが四箇所のみという点であり、それ以上覚えようとするならば、どこかに上書きする必要がある。  桃太郎一行の間では、分からなくならないように【上】【下】【左】【右】とそれぞれ呼ぶことにしていた。 「よし、取り敢えず【上】を『美作(みまさか)・俺の家』にした。全員把握しとけよ」 「はぁーい」 「承知っす」 「勿論よ」  返事をするや否や、キサラは元の巨鳥の姿へと変化して、その靭やかな首をもたげた。 「さあ、乗って」 「悪いな、宜しく頼む」 「キーちゃん、ありがと」 「クソ巨大チート雉女(きじおんな)、ありがとよ」 「……ふうん」  桃太郎が背に跨り、その後ろにヤイバがちょこんと乗り付けると、キサラは身体をブルっと震わせて、ショウマだけを揺すり落とした。 「おわっ!? クソ雉、テメー何しやがる!」 「礼儀を知らない猿の乗り場は、そこじゃないわよ」  キサラはそう発すると、発達した鉤爪でガシッとショウマを掴み、そのまま大きく羽ばたいて、宙に浮かび上がった。 「おい! いや! 怖い怖い怖い!!! 指先の力加減でいくらでも落ちちゃうって! 背中に乗せろよ!」 「落ちたら何なの? さ、行くわよ!」  キサラは大きな羽を力強く動かし、風を切って飛び始める。 「いやっほーう!」 「よっしゃ、いざ鬼ヶ島へ!」  桃太郎とヤイバは遥か彼方、水平線の向こうを指差した。 「いやぁぁぁぁぁ!!! 怖いってぇぇぇぇぇl!!!」 「暴れると、うっかり落とすわよ?」  こうして桃太郎たちは、一路鬼ヶ島へと旅立って行った――。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加