3人が本棚に入れています
本棚に追加
「また台風が来た。もう秋が近づいてきたんだわ。海にもクラゲが出るころねきっと。」
私はひとりテレビのニュースを見てつぶやいた。
最近まで晴れが続いていたというのに、この頃雨がふる日が増えている。洗濯物が乾かないのが憂鬱だ。それだけでも気分が滅入ってしまう。
私は今50歳だ。高校を卒業してからずっと今の会社で頑張ってきた。高卒の私は課長にまで昇進した。大卒なら10年で到達できる役職だというのに、高卒の私は25年もかかったのだ。そこからは出世もなく同じ仕事を今まで続けている。
この歳まで結婚は一度もしていない。恋愛は何度か経験したが、その恋愛が結婚に結びつくことはなかった。私は結婚より子育てより仕事をしたかった。
高卒の私が事務職を通じて出世の道を切り開く。
学歴だとか、女性だとか関係なく活躍できることを証明したかったのだ。私はみんなに罵詈雑言を言われることもあった。今もたくさん言われる。
でも私は負けない。必ず定年まで走りきってやると思っているのだ。
でも時々とても不安になるのだ。雨の日は特に不安になる。いつからだろうか。歳を重ねた私の身体は雨の日に調子が悪くなる。頭痛、だるさから鬱っぽい気分になる。台風が来て万が一ひとりの私が死んでしまったら、果たして誰が私を探し出してくれるのかしら。親たちは、もう高齢で施設にいるし兄弟がいない私は瓦礫とともに処分されてしまうのだろうか。また、鬱が顔を出し始めた。
私はリラックスをし何も考えないようにしようと、
テレビを消して窓の外を見ていた。
「雨が強くなって来たなぁ。」
雨は段々と強くなって来た。
「あれはなんだろう。」
虫にしてはカラフルだし、5匹も群れているし。
私はメガネをかけて見た。よく見ると小さな人だった。小人だ。雨粒みたいな帽子を被っている。
小人はベランダにやってきて整列をした。
私はリビングに小人を入れてあげた。
「雨の鼓笛隊です。今日はあなたに演奏を届けにきました。ぜひ聞いてください。」
私は思わず拍手をした。かわいらしい小人達は、それぞれ楽器を持ち演奏を始めた。透明な鈴のような音色。私の好きな曲を弾いてくれている。
私は心地よく笑顔になる。
3曲が終わった後また小人達は整列して、お辞儀をした。
「いかがれしたでしょうか。私は最近おねいちゃんになりました。おねいちゃんは、立派です。
私のお兄ちゃんもおねいちゃんも立派だからです。だから私も立派になるように頑張ります。
でも一人では立派は難しいです。だから負けそうな時はお兄ちゃんやおねいちゃんに助けてもらいます。
あなたは、立派な人れす。私みたいに助けてもらわなくても一人でなんでもできちゃいます。
すごいです。だけど、あなたは今たくさん疲れて傷がついています。そんな時は思い出してください。私たちはあなたのそばにいます。目に見えないかもしれませんが、私たちはあなたを抱きしめます。
だから安心してください。」
小人はまたお辞儀をして演奏に戻った。
そうだ、私は今までだって一人で頑張れた。
だから今からだって頑張れるはずだ。
実は2日前に子会社に出向命令が出たのだ。
今度は部長として活躍してほしいと言われたが、実際は左遷人事だ。契約社員となり会社の都合で首を切られるポディションだ。私は職を失うことに恐怖を感じ体調を崩し今日有給をもらったのだ。
でも、わかった。私は何かにしがみつかなくても歩ける。まだまだやれる。与えられた今が嫌なら変えることだってできる。小人さんの演奏で力が出てきた。
「あれ。」
気がつくと小人さんはいなかった。でも私は立派に戻れる気がしてきた。あの小さな小人さんみたいに頑張れる。私はまた走り出す。
最初のコメントを投稿しよう!