たんぽぽ花火

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たんぽぽ花火

例えば大雨の中。傘も差さずに佇み、視界先から近づく車のヘッドライトを見ているよう。 例えば深層に沈みながら、海面を見上げて差し込む陽の光に手を伸ばしているよう。 それは全く形としてそこにはなくて、それでも確かに輝きを纏って、現実と幻想の狭間に浮遊する俺を嘲笑っている。 俺の手元にあるそれは、どこか懐かしく、ペトリコールの匂いと混ざり、火薬の匂いが鼻腔をくすぐる。 実際それから匂いが発生しているのではない。これは俺の記憶に焼き付いたものだ。 高校最後の夏休み。気まぐれで始めた自室の掃除中、懐かしい玩具や、何を描いていたのか思い出せないほど昔の抽象画。それらの中に見つけた数枚の写真。 その中の一枚。手ぶれで殆ど概要の写らない。写真としての特色を無下にしている一枚。 暗い背景の真ん中。目映く丸い大きな黄色い玉がケサランパサランのように写り込んでいる。 一見、何が写っているのかわからないその写真でも、形として残っている風景がある。 花火だ。いつか見た花火大会。空を彩る極彩色の花びらたち。 しかし形は似ていても、色合いが俺の想像するソレとは違う。 こんな単色な花火。俺は今まで一度も視たことがないと思う。 いや、実際はあるのかもしれない。それでも俺の記憶にソレの入る余地はなかった。
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