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一緒にしまってあった写真を一瞥してみる。どこかの田舎の写真のようだ。
田畑に山々、農道がどこまでも続いて、味のある家屋が建ち並ぶ。
緑、緑、青、緑。緑、緑、茶、緑。
人工物の類いが見当たらないと大袈裟には言えるほど、ほのぼのとした田舎風景だ。
俺はその場所をよく知らない。
なのに、どこか温かみを感じる。
ああ。似ている。お母さんの温かみに似ている。
俺の母は、俺がまだ4歳の頃この世を去った。
母と認識してから随分と短い時間だったけど、優しい声や、温かい手のひらの感触を未だに覚えている。
それと、いつ何時でも同じように俺を見ていたあの笑顔も。
それから父との長い二人暮しの中、成長するにつれ父との会話も減っていき、今では挨拶するのも珍しいくらいだった。
だからこそ、親子という関係でありながら、こうやってこの写真の事を聞き出そうと面と向かっている今、居たたまれないほど緊張している。
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