たんぽぽ花火

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父と横並びに腰を正座する。目の前には祖父母。妙に張りつめた空気が漂う。 「すいませんでした。もう、ここには来ない約束でしたのに」 開口一番、謝罪を切り出した父。 「ううん。いいんだよ。今こうして花苗くんの姿を見て気づいたんだ。娘が死んでから、慎吾さん達を遠ざけたのは、娘に縛られる事なく生きて欲しいから。そう思っていた。けどなぁ。本当は私が忘れる事ができないからだったんだなぁ。こうして花苗くんに会えば思い出してしまう。その目元を見れば思い出してしまう。それが辛かったんだなぁ」 祖母は目を細めて涙を溜め込む。 「いえ。私も同じようなものですから。極端に妻の話を拒んで、息子を哀しませてきた。でも、今日がそれを払拭する一歩ならと、息子を止める事もせずにここまで来ました」 無口な父から語られるその真実に、どうしようもなく恥ずかしくなる。今までの自分の言動に。自分勝手で人を慮る事もしなかった自分自身に。 「そうだねぇ。今は思うよ。あの子の代わりに、あの子の出来なかったこと。花苗くんの成長を見続けることが、私達の役目だったんだねぇ。ごめんね。慎吾さん。ごめんね。花苗くん。ごめんなぁ。花子」 そうしていよいよ堪えきれなくなった涙を頬に伝わせる祖母。 その隣の祖父も同じように涙を見せぬように、口を閉ざして堪えているようだった。 「父さん。それぞれが幸せだったんだよね。父さんも、おばあちゃんもおじいちゃんも。そして俺も。幸せだった分、現実とのギャップから逃げようとした。でも、これからの幸せは今度こそ自分達で切り拓こうよ。父さんとおばあちゃんとおじいちゃん、俺と、お母さん。みんなで過去も背負ってさ」 どうしてそんなドラマの台詞じみた言葉がスラスラと紡げたのかはわからない。でも紛れもない俺の本心だった。 父は「ああ」と一言だけ。それでも温かみに溢れた返答をしてくれた。
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