ご主人様に全て捧ぐ

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ご主人様に全て捧ぐ

 ほんのりと温かい液体が、茶碗を半分埋めています。苦そうな緑は変わらずですが、今日は甘い香りを付けることが出来ました。 「ご主人様、お薬です。今日もちゃんと全部飲んで下さいね?」 「(かがり)はもう、すっかり僕のお世話係さんだね。怒られたくないから頑張って飲みます」  冗談っぽく笑まれたこの方こそ、このお屋敷の若き当主であり、私のご主人様――風日向さまです。  風日向さまは元々病弱なお方でした。しかし、つい二年前に倒れられてからは、ほとんどをお屋敷内で過ごされるようになりました。  それまではよく、お仕事に精を出されていたことを覚えています。いつお眠りになっているのか分からない、そんな暮らしのせいでお体を悪くされたのかもしれません。  具体的な内容はお聞き出来ていませんが、人々の暮らしを守るお仕事だと仰っておりました。 「はい、頑張って下さいな。ご主人様のお体のために一生懸命作ったんですから……!」  私と風日向さまが出会ったのは、今から六年前、私が四つの時です。お腹を空かせて夜の町をさまよっていたところ、私を家へと招いて下さいました。  それどころか、帰り道の分からなくなっていた私を、そのまま置いて下さったのです。  見知らぬ人のお家に住むなんて、当時は恐ろしかったものです。  しかし、両親の死を見ていたので、幼いながらに拒否権はないと察しておりました。今ではとても感謝しております。  幼い私に、風日向さまは自由な暮らしを下さいました。  結果として私が選んだのが、薬の勉強で御座いました。病弱な風日向さまに報いるため、日々懸命に学んでおります。  私はいつも、ご主人様の為だけを思い生きているのです。    空っぽになった茶碗は、いつも私を満足させてくれます。炊事場に戻る足取りまで軽くしてしまうのです。  茶碗の洗浄は、炊事係さんがおりましたのでお任せしました。しっかりお礼を残して、私は自室へと収まります。  私の部屋は、本と乾燥させた植物がたくさんあります。全て、庭で収穫したものを乾燥させて作りました。  薬になる植物ばかりの庭は、入れ替わりでお辞めになった薬師さんに頂いたものです。  このお庭は、私のお気に入りで御座います。
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