モンスター

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モンスター

 アマニは、スマートフォンだけをポケットに入れて教室を出た。  屋上に着くと、先に出たキヌアが柵にもたれかかって待っている。 「よく来たね」 「全部話してくれるんだよね」 「アマニが後悔しないというのなら、話すよ」 「どういう意味?」 「そのままの意味だよ」  裏の意味がありそうな気はするが、ここまで来たのだから、聞かずに帰る選択肢はアマニにない。  ゴクリと固唾を飲む。 「後悔はしない」 「そう。あと、全部話すにあたっての条件があるんだけど」 「何?」 「スマホを渡して」 「私のスマホ?」 「そうよ。盗聴・盗撮禁止ってことで、預かる」 「……」  密かに録音しておこうと思ったが、しっかり見抜かれていた。  アマニは、仕方なく、録音アプリをオフって渡した。  キヌアは、中を見て、「やっぱり録音していたんだ」と、笑った。 「もう何も持っていないわ」 「ええ。信じる」  これで話を聞けると、アマニは身構えた。 「もう一つ条件がある」 「一つじゃないの?」 「なんで一つだと思ったの?」  アマニは、条件が一つだと勝手に思い込んでいた。 「分かった。他の条件って何?」 「私の横に並んで座って」  そう言うと、キヌアがヒラリと柵を越えて向こう側に立った。  足を滑らせたら、一発で落下してしまう。  三階建ての校舎。この高さでは絶対に助からない。 「危ないよ!」 「アマニが変なことを企まなければ、落ちないわ」  キヌアは、自信満々に校舎の(へり)に腰を掛けると、両足をブラブラ揺らして遊んだ。 「なんで、こんなに危険なところで話すの?」 「危険だからこそ選んだの。冷静でいないと落っこちるでしょ」  興奮して暴れた方が落ちるということだ。 「ほら、隣に来て」 「……」 「来ないと話さないよ」 「分かった……」  アマニは、どうしてもニブとアサイの死について話を聞きたかったから、覚悟を決めて柵を越えた。  下を見ると足がすくむ。出来るだけ見ないようにして、キヌアから数メートル離れて腰かけた。 「遠いなあ。もっと近くに来ればいいのに」 「ここでいい! 私からも条件を言わせて。これ以上近づかないで!」 「そんな立場にいると思っているの? ……まあ、いいか。最後だもの。それ位は聞いてあげる」  アマニは、キヌアがこんなに冷酷な性格をしているとは今まで知らなかった。  どちらかというと、繊細な優しさを持っていると思っていた。それは全て演技だったのだろう。 「で、何から聞きたい?」 「ニブについて聞きたい。ニブが亡くなった日、本当は会ったのかを知りたい」 「会ったよ」 「やっぱり! それで、彼女に何をしたの?」 「睡眠薬を飲ませて、首にビニール紐を掛けて、締め上げた」 「!」  覚悟していたとはいえ、直接聞くと生々しくてとてもショックだった。 「大丈夫? この程度で眩暈を起こしていたら、本当に落下しちゃうよ」  よくそんなセリフを言えたものだ。 「動機は?」 「気に入らなかったから」 「笛野スピアと同じ?」 「そうみたいね」  それだけでは納得できない。 「ニブがあなたに何かしたわけじゃないんでしょ」 「ないけど、分かるの。私のことを目障りだと思っていた」 「そんなことない」 「アマニは気づいていないだけ。私が行くといつも嫌な顔をした。私のことを嫌いだったみたい」 「そうだとしても、そんなことで殺す?」 「もう一つある」 「何?」 「私とアマニの関係に邪魔だったから。三人は必要ない。二人で充分」 「……」  アマニは、キヌアの本音を初めて知った。 「キヌアは、ニブに嫉妬していたんだ」 「そうね。でもそれも過去の話。彼女はもういない」  キヌアは、嬉しそうに言った。  自分勝手な考えで人を殺す。キヌアはモンスターだとアマニは思った。
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