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訃報
「皆さんの仲間である二藤舞さんが亡くなりました」
「えー!」
教壇にいる担任教師の手塚がニブの訃報を伝えた時、クラス内が一瞬の息を飲み、その後ざわついた。
「いつ?」
「事故? 病気?」
「最後に登校したのは、先週だっけ?」
「普通に授業を受けていたよね?」
「急死? ということは、自ら?」
「何があったんだろう」
「ダンスパーティーはどうなる?」
「せっかく、ペアになれたのに」
口々に出てくる言葉に追悼とか哀切はなく、勘繰りとダンスパーティーの心配ばかりである。
誰もが死因と原因の憶測を広げ、驚きはしても悲しんでいない。
キヌアは、わざとらしくハンカチを顔に当ててずっと俯いていたが、涙は一滴も出ていない。
他の人達の視線は、自然とアマニに集中して、誰もキヌアを見ていない。
キヌアも、アマニがどのような反応するか密かに伺った。
アマニは、顔面蒼白になったかと思うと、次の瞬間机に突っ伏して、「ワー!」と、泣き崩れた。
本当に何も知らなかった様子で、皆が戸惑っている。
アマニのショック状態がひどくなり、見かねた手塚が、「保健委員の設楽さんは、甘利さんを保健室に連れて行くように」と命じた。
長い三つ編みの女子が「はい」と、勢いよく立ち上がると、アマニの脇を支えて立ち上がらせて、教室から引きずるように連れ出す。
二人の背中が教室から消えた途端、教室内は大騒ぎになった。
「彼女は親友だったのに。何か悩みとか聞いていなかったのかなあ?」
「あれだけ仲良かったのに、亡くなったことを知らなかったなんて、ある?」
「絶対何か隠しているでしょ」
「はいはい、静粛に。勝手に喋らない」
手塚が皆を諫めたが、生徒たちは口を閉じない。
「先生は誰から聞いたんですか?」「自殺ですか?」「誰かに殺されたんですか?」
キヌアは、無言で聞き耳を立てた。
特にしつこく聞いて騒いでいたのが、笛野スピアである。
彼女は、ニブを苛めていたグループの首謀者だ。それで死因が気になるのだろうと誰もが思った。
中には、(原因、お前じゃね?)という冷めた目で見ている者もいたが、本人は意に介していない。
「連絡はご家族からでした」
事故なら警察から来るはず、やっぱり……と、皆がザワザワする。
「詳細はまだ不明。先生たちも、何も聞かされていません。いずれ、学校から発表があります。それと、今後、この話題を出さないように」
「えー!」「なんで?」
そこに、ガラガラとドアが開いて、アマニと設楽が戻ってきた。
「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
アマニは、手塚に深く頭を下げて自分の席に戻った。
皆が静かになったので、手塚はホッとした。
「黙とうして、二藤さんの冥福を祈りましょう。はい、始め!」
一分の黙とうで、ようやくクラス内が落ち着いた。
「今日は臨時休校になります。全員帰宅して、学校の連絡を待つように。外出禁止です。自宅学習で過ごすこと」
ホームルームは終了した。
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