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マグロカツバーガー
「アサイは、どうしてこんなに協力してくれるの?」
「僕がダンスパートナーに選んだことが原因だったらと思うと、何かせずにはいられないんだ」
アマニは、ハッとした。
アサイはアサイで傷ついていたのだ。
自分のことばかり考えて、アサイのような他者への労わりをすっかり忘れていたことを反省した。
「アサイは全然悪くない」
通り一遍の慰めしか言えない自分が不甲斐ない。
キヌアも、「アサイが自分を責める必要はないと思うよ」と、慰めた。
「君たちからそう言って貰えると、肩の荷が少し軽くなるよ」
「お待たせ!」
叔父が運んできて、三人の前にマグロカツバーガーが並んだ。
特製バンズにマグロカツと大量の千切りキャベツが挟まれていて、タルタルソースがたっぷり掛かっている。サイドは、くし切りの大きなフライドポテト。どちらもボリューム満点だ。
「叔父さん、ありがとう。いただきます」
「御馳走になります」
「頂きます」
アマニは、食欲がなかったが、せっかく出してくれたバーガーをありがたく頂くことにした。
かぶりつくと、一口ですっかりその味に魅了された。
「美味しい!」
「だろ? 本当にこれを食べて貰いたくてね」
「バンズが美味しい、マグロカツもサクサクで美味しい、キャベツも甘味があって美味しい、タルタルソースが美味しい、ポテトも揚げ立て! 外がカリッと中はホクホク!」
「全部、最高だわ」
「喜んでもらえて良かったよ」
アサイは、二人の食べっぷりを見て満足し、連れてきたかいがあったと、叔父に向けて親指を立てた。
「キャベツもポテトも地元産。マグロも近くの漁港で水揚げされたものだよ」
叔父が得意げに説明した。
「ニブにも食べさせてあげたかったなあ」
アマニは、ニブを思い出して、食べながら泣いた。
アサイとキヌアは、そんなアマニを黙って見守る。
(この二人、ちょろいなあ)
どんな話し合いになるのか気になってついてきたキヌアだったが、あまりに無関係で平和なことばかりで、心配する必要はなさそうだ。
三人の前から、マグロカツバーガーもポテトも綺麗に消えて無くなった。
「元気出た?」
「うん。美味しくて感動した」
「旨いものを食べると、悩みも吹っ飛ぶよな」
私たちを元気づけるため、マグロカツバーガーを食べさせてくれたんだとアマニは気付いた。
『後追いなんて、やめてよ』と、母に心配されるほど、アマニは気分が落ち込んでいた。
悲しみが消えることはない。だけど現金なもので、美味しいものを食べただけで生きる意欲が体の芯から湧いてくる。それが初めての味ならば、より一層効果的だ。
「それで、私たちをここに連れてきてくれたんだ。ありがとう」
「大した事ないさ」
恩着せがましくないところがまたよい。
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