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アマニの証言
「最後に会ったのは、亡くなる前日だった。駅前にクレープのキッチンカーが来ていて、食べたいねって話になって、待ち合わせて行ったの。私はマンゴーで、ニブはチョコレートを選んだ。その時はとても普通に食べていた。私が気づかなかっただけかもしれないけど。本当に変わった様子はなかった。でも、ちょっとだけ元気がなかったから、どうかしたのかと聞いてみると、朝居君への返事を悩んでいるって言われた」
聞きながらメモ入力していたアサイは、「ダンスパートナー」と聞いた瞬間、指の動きを止めた。目が宙を泳いでいる。
「ごめんね。ありのままを話しているから、わざとじゃないの」
「大丈夫だ。続けていいよ。それから?」
「まだ決めかねているけど、いつまでも待たせておけないから、そろそろ言わなきゃって。アサイは、ニブの返事をまだ受け取っていないんでしょ?」
「それについては、あとで説明する。今は、アマニの話を聞きたい」
「うん。私たちはその場で別れた。夜になると、ニブからメッセージがきて、最初は何かあったのかと心配したけど、内容はたわいもない話で、テレビを観ていて、思いついて送ってきたんだと思う」
アマニは、自分のスマホをとり出して画面を見せた。
観ていたドラマの感想、出演していた推しアイドルの話など、普通の女子高生が好む普通の話題で、当たり障りのない会話がやり取りされている。
「この時は、死ぬ気がなさそうに見えるな」
「そうね。結局、これが最後になってしまったなんて、今でも信じられない。もう二度と話が出来ないんだ……」
アマニが親友の死を実感すると、みるみるうちに涙が溢れていく。綺麗な涙を紙ナプキンでそっと拭いた。
全ての所作が、静かで美しくて可愛らしい。本当に天使の様だ。
それを感じていたのは、キヌアだけでなく、アサイも同様で、黙って見守った。
アマニが泣いているのを叔父が心配して、なぜかアサイが咎められる。
「糀君、女の子を泣かせちゃだめだろう」
「え、僕のせい?」
「目の前で泣いているじゃないか。見てないで慰めてあげないと」
アサイは、どう慰めればいいのか分からなくてあたふたしている。
アマニは、アサイと叔父さんに迷惑を掛けてしまったと反省した。
「叔父さん、ごめんなさい。彼は悪くありません。私がいけないんです」
アマニは、(泣いてばかりじゃだめ。強くならなきゃ)と、二度と泣かないと決めた。
「続けましょう」
気丈に振る舞うアマニの姿を、キヌアは、(美しい)と感じた。それはアサイも同じで、感心している。
「少なくとも、亡くなる前の夜までは、自殺など考えていなかった。この後に、とんでもなくショッキングなことが起きたんだろうか」
「何かあったら、すぐ私に相談をくれれば良かったのに……。私に話したところで解決出来なくても、何かが変わったと思う」
アマニは、頼られなかったことが悲しくなる。
「相談する時間がなかったとは、考えられないかな?」
「どういうこと?」
「最後のメッセージが深夜0時。おやすみで終わっている。つまり、彼女はアマニがこのあと就寝すると思っていた。何かあっても、起こして迷惑になると考えて、相談できなかったんじゃないのかな」
「そうなのかなあ」
「きっとそうだよ。アマニが気に病むことはない」
アサイの発言には、アマニの負担を軽くしようという意図がある。
アマニは、それを聞いて笑顔になった。アサイの思いやりある言葉を嬉しそうに受け取っている。
(二人の関係に変化が生じている?)
キヌアは、見つめ合う二人の間に流れる空気の微妙な変化を感じ取った。
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