犬飼くんのお兄さん

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犬飼くんのお兄さん

デートの最後で、遊園地のジェットコースターに乗りまくった犬飼くん。 小学生の時に、ハーネスなしでジェットコースターに乗って怖い思いをしたはずなのに、犬飼くんは、それがトラウマになることなく、今もジェットコースターが大好きなのだった。 そして、初デートの帰り道。 あたしは、楽しいより、犬飼くんのド天然さに、何だか疲れてしまった。 しかし、そのあたしに、犬飼くんは、とどめを刺すように、突拍子もないことを言い出した。 「あのさ、オレの兄貴、犬なんだ」 「は?」 あたしは、ポカンとした。 「オレの名前、犬飼次郎だろ?」 「う、うん」 「兄貴は、犬飼太郎っていう犬なんだ」 「ええええっ?!」 犬飼くんのお兄さんは、犬?! えっ?  もしかして、獣人ってやつ?! 「あ、兄貴!」 犬飼くんが、遠くを見て言った。 「えっ?!」 あたしは、驚いて、そちらを見た。 確かに、中年女性に散歩されている犬がいた。 普通の柴犬だった。 その柴犬に向かって、犬飼くんは言った。 「兄貴! お散歩ですか?」 「ワン!」 おそらく太郎という名の普通の柴犬は鳴いて答えた。 「え……、犬飼くん、お兄さんって、ただの柴犬では……?」 「そうだよ。兄貴は、ただの犬。だけど、オレより先に家にいたからオレの兄貴。名前も、太郎、次郎だし」 その時、太郎を連れていたおそらく犬飼くんのお母さんが、おほほと笑って言った。 「あら、次郎のお友達? 太郎も次郎も大切なうちの子なのよ~。おほほ」 う~ん。 自分の実の子と、ペットを兄弟にするとは……。 さすが、この器のでかさは、犬飼くんのお母さんだなあ、と思ったのだった。 c1e6ef16-1a15-4c93-98a6-701a838d12c2
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