レンズの向こう

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レンズの向こう

 幸也くんは私と同じ中学二年生。  学ランがまったく似合わない。それは本人も自覚してるらしくて、教室では一年中ワイシャツか体操服で過ごしている。  部活はバスケ部。でも上手いとも下手だとも聞いたことがない。  勉強も普通。できるともできないとも聞かない。  一年生のときは別のクラスだったから、名字の〈藤野〉しか知らなかった。二年生で同じクラスになって、名前順で席が私のとなりになったから、少しずつ話すようになった。  話しやすいとか話しにくいとかもない。普通のクラスメート、って感じ。  だから、意識したこともほとんどなかった。  かっこいいとは思わないけど、かっこ悪いとも思っていない。  本当に、普通。普通の男子。  クラスの女子同士で「クラスの男子、だれがかっこいいかランキング」を作ろうという悪ノリに付き合わされたことがある。そのとき、ほかの男子のことは簡単に「かっこよくない」と切り捨てられたけど、幸也くんだけなぜかは即答できなかった。そのせいか、クラスの女子の間で「美香は幸也くんのことが好き」というウワサがあがった時期があった。  こういうウワサは否定するほど悪ノリがひどくなるものだから、勝手に想像してろ、って放っておいた。そしたら七十五日も待たずにこのウワサは消えていった。  じゃあ他にだれか好きな人がいるの? とたまに聞かれるけど、いないものはいないのだから、いつも「いません」と答える。 「美香はガードが固いね」  クラスメートはそう言う。  別に、ガードも何も、好きな人はいないんだから。  アイドルとか俳優にも興味はない。  そもそも好きってなにさ。
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