2人が本棚に入れています
本棚に追加
「今、私、なんて言った?」
急に心臓がドキドキしてきた。教室を見回す。――誰もいない。
けれど不安でろうかに出てみた。――人の気配も、ない。
だから、だれにも聞かれていない。私以外、聞いていない。
私は安心して自分の席に戻った。けれど、落ち着かない。胸がそわそわした。
「私、今、なんて、言った?」
だんだん自分のほほが熱くなっていくのを感じた。
(幸也くんが、好き?)
(好きって、言った?)
私は「暑いなあ」と、誰に言い訳するわけでもなくつぶやくと、立ち上がって教室の窓を開けて回った。
「ああ、暑い」
窓に手をかける。
今日は梅雨の間の晴天、窓ガラスから日差しが差し込む。
「ありえない、ありえない、ありえない」
私がだれかを好きになるなんて。
(これは、お姉ちゃんの言葉の呪いなんだ)
そう、幸也くんが言ったように――って、ああ、ダメだ。何を考えても彼と結び付けてしまう。
私はよろよろと自分の席に戻った。そしてうつむくと、開いた日誌が目に入った。
そこには前日分のページが目に入った。その日誌の右下すみにあるフリーコーナーは、いつからか絵しりとりが行われていた。前回の人は美術部で、見事なツバメのイラストが描かれている。
「め」
今の私にはこれしか浮かばない――と、メガネのイラストを描いた。でも、それをすぐに消した。なぜなら次の日直が幸也くんだから。これでは意図的にメガネを描いたと思われかねない。
「じゃあ、なんだろう?」
しばらく悩んでから小さな魚を描いた。メダカのつもり。
「幸也くん、分かるかな?」
私はこの絵しりとりを見たときの幸也くんの表情を思い浮かべた。
(上手い! っておどろいてくれるだろうか?)
(それとも、「なにこれ?」と、うで組みして考えちゃうかな?)
あれこれと考えてから、私はついに、自分自身に降参した。
この気持ちが、なにか――私は自覚することに決めた。
(ああ、これが〈好き〉ってこんな気持ちなんだね)と。
最初のコメントを投稿しよう!