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末妹との別れ
帝都・光庵へ行く最短の方法は、清涼園の水を汲みにくる荷馬車だ。三日に一度の頻度とはいえ、確実に帝都まで運んでくれるのはありがたい。
わたしは次の馬車を指折り数えて待ちながら、皆の前ではいつもどおりにふるまっていた。洗濯物を干し、シーツを変え、湯殿を掃除し、食事を作り。与えられた奉仕活動に、今まで以上に勤しんだ。
ただひとつ悩みがあるとすれば、末妹の第六〇二号に、今晩からの不在を打ち明けねばならないことだった。
清涼園ではおばば様の診断のもと、同じ武具同士で三人の擬似姉妹を作る。槍なら槍姉妹、弓なら弓姉妹のように、それぞれの武具姫として目覚められるよう組み分けされる。中でも刀剣は珍しいらしく、長姉が嫁いでから番号の離れた末妹がくるまで、わたしはずっと一人きりだった。
此処に住む皆は家族と声を大にして謳われているが、擬似姉妹の結束は固い。姉が一人いなくなりました、じゃあ別の姉妹と一緒にとは、なかなかならない。
末妹も同じだ。わたししか姉を知らず、わたしを姉と呼び慕うかわいい子。武具姫として目覚めるために教え育てることは、まだまだ沢山ある。
それでもわたしは帝都へ行くのだ。長姉に会うために。
「おねえさま。お塩、いれすぎではないでしょうか?」
夕食の粥鍋と向きあっていたわたしは、聞こえてきた可愛らしい声で現実にかえった。くりくりした栗色の瞳がわたしを見上げ、小首を傾げている。
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