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わたしは粥鍋をかき混ぜていた木べらを抜き、味見する分だけを木製の深皿に移す。末妹が持ってきてくれた木匙で粥を掬い、息をふきかけながら咀嚼する。
「しょっぱいね」
「しょっぱいですね、おねえさま」
二人でひとしきり笑いあい、わたしは水瓶にくんだ水を粥鍋に注ぐ。木べらでぐるりと粥をかき混ぜ、火加減を見ながら再度竈の自在鉤に掛けた。
しょっぱくてどろどろのお粥になってしまうだろうが、今晩限りは許して欲しい。山羊のチーズをおまけでつけるからと、わたしは内心で他の姉妹達に謝罪する。
わたしは末妹に木製の丸椅子を持ってくるよう言い、同じ丸椅子を竈の前に置く。向かい合って座ると、次は何をするのか期待している末妹と目があった。
これからすること。それは、わたしが末妹の心をぐちゃぐちゃに傷つけて、枯れ果てぬ涙の海に突き落とすことだ。
「六〇二に話があるの。聞いてくれる?」
「はい、おねえさま」
ぴしっと背筋を正した末妹を一瞥し、わたしは目を閉じて深い息を吐く。
目と口を開いた途端、するりと言葉が出た。何度も練習してきた台詞がするする口をつき、静寂に波紋を広げていく。
もうすぐわたしはいなくなるの、あなたは一人になるの。武具姫になるために頑張るのよ。毎日ご飯をちゃんと食べて、夜はお布団でぐっすり寝るのよ。
言葉の端々に滲ませた意味を知る度に、末妹の小さな肩がびくりと震える。
「──はい、おしまい。話を聞いてくれてありがとう」
「……おねえさま。おはなししてくださって、ありがとうございました」
瞳にためた涙をワンピースの袖で拭い、末妹が頭を下げた。微かな嗚咽が聞こえる。小さな手が膝上のワンピースをぐしゃりと握り、肩を震わせて泣いている。
わたしは勢いよく丸椅子を蹴り倒す。鈍い音が響く中で末妹に近づき、おもいっきり強く抱きしめた。
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