恋の媚薬

3/9
前へ
/9ページ
次へ
*** 「小倉(おぐら)。これ、いつものお返し」 出勤して自分のデスクに鞄を置くと、和泉から話しかけてきてくれた。いつも私より来るのが遅いのに、今日は珍しく早い。 目の前に差し出された白いビニール袋からは、見覚えのあるパッケージが透けて見えている。 「……何、突然?」 嬉しいという気持ちを呑み込んで、至って普通に答えた。内心かなりドキドキしてるけどバレないように繕い中。 「近所のスーパーで特売だったから、小倉にやろうと思ってさ」 「ありがとう。じゃあ遠慮なく……って、こんなに貰っていいの?結構な数あるけど」 中に入っていたのは、数種類の高カカオチョコレート。いつも食べている72%が数箱と、 まだ食べたことがない86%と95%が1箱ずつ。 「あぁ。俺も最近は毎日のように貰ってたしな。72パー以外の食べる時さ、良かったら声かけてよ。どんな味なのか気になってたんだよね」 「うん。分かった」 あかりが考えた「和泉が私の傍を通る時、他の人へのついでを装って個包装のチョコレートを渡す作戦」を実行してから約3週間。 毎日話せるだけでも嬉しいのに、和泉から貰える日がくるなんて……! 断言できる。今日はいい日。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加