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「え、すごい。ひょっとして、これあたし?」
隣の席の悠宇ちゃんが、わたしの机の方に身を乗り出すようにして言った。
「ひゃぁっ!」
反射的に、ばっとスケッチブックの上に覆いかぶさるようにして絵を隠すわたし。
「こ、これは……」
「日菜って、めっちゃ絵うまいんだね。ねえ、もう一回見せて」
なんでこんなところで絵なんか描いちゃったんだろ。
人数が少ないからって、油断しすぎだよ、わたし。
前の学校だったら、こんなこと絶対にしなかったのに。
だって、もうイヤだから。
(日菜って、ひょっとしてマンガ家にでもなりたいの? そんなの、才能のある人しかムリに決まってるのに)
(うまくもない絵をホメるのって、結構気を遣うんだよねー)
こんな声、二度と聞きたくないって思ってたのに。
悠宇ちゃんだって、お世辞でそんなふうに言ってくれてるだけなんでしょ?
本当は、前の学校の子たちみたいなことを思ってるんでしょ?
そう思っていたのに――。
(めちゃくちゃうれしいんだけど。あたしの絵を描いてもらったのなんて、はじめてだし)
そんなウキウキした心の声が聞こえてきた。
そっと悠宇ちゃんの方を見ると、なにかを期待するようなキラキラした瞳に、じっと見つめられた。
「……本当に?」
本当にわたしが描いた絵で『うれしい』って思ってくれるの?
「うん。あ、見せるのがイヤだったらムリしなくてもいいからね。ごめんねー、勝手にのぞき見なんかして。すっごく熱心に描いてたから、つい気になっちゃって」
悠宇ちゃんなら……。そう思って、おそるおそる絵の上に覆いかぶさっていた体をどかすと、悠宇ちゃんとは反対側から伸びてきた手に、さっとスケッチブックを奪われた。
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