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「うわっ、なにこれ。ひょっとして悠宇? 全然似合ってねー」
神谷くんが、わたしの絵を見てゲラゲラ笑っている。
その瞬間、かぁっとほっぺたがアツくなる。
「だよねー。やっぱ女子っぽい服なんて、あたしには似合わないよねー」
ヒドイ……。だからイヤだったのに。
わたしが唇をかみしめ、顔をうつむかせると、悠宇ちゃんから思ってもみなかったような心の声が聞こえてきた。
(もうっ。武流があたしのことを女子だと思ってないってことくらい、あたしはちゃんとわかってるけどさ。今みたいな言い方したら、日菜が自分の絵をからかわれたって勘ちがいしちゃうじゃん!)
慣れた手つきで、悠宇ちゃんが神谷くんからさっとスケッチブックを奪い返すと、「ごめんね」と小さな声で言いながら、わたしに返してくれた。
その後、神谷くんのことを真正面から見据える悠宇ちゃん。
ニコニコ笑っているようにみえる悠宇ちゃんだけど……目が全然笑っていない。
「あたしのことはいいんだー。けど、日菜の絵を笑うのは許せないなあ」
悠宇ちゃんの逆鱗に触れたことに気づいたのか、神谷くんがじりっと一歩あとずさりする。
「……悪かったな。杉崎の絵、笑って……っつーか別に俺、杉崎の絵、笑ったつもりねーから。こっ、これでいいよなっ」
そう言い捨てると、神谷くんは自分の席へと戻っていった。
そんな神谷くんのことをじっと見送ったあと、もう一度悠宇ちゃんがわたしの方に向き直る。
「ねえ日菜。その絵、もしよかったらなんだけど……もらってもいい?」
「え、も、もちろん」
慌ててその絵を破り取って悠宇ちゃんに差し出すと、両手で受け取って愛おしそうに見つめる悠宇ちゃん。
「ありがと。すっごくうれしい」
「え、これ日菜が描いたの? すっげーうまいな! オレにも教えてよ」
ちょうど教室に戻ってきたばかりの俊哉くんが、悠宇ちゃんの持っている絵をのぞき込みながら、そんなことを言った。
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