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「うわっ、またはじまった。俊哉の『オレにも教えて』」
うしろの席から、からかうようにして言う神谷くんに、俊哉くんが口をとがらせる。
「いーだろ、別に。武流に言ってないし」
「一月に転校してきたとき、マジでヤバかったもんな、おまえ。ひらがなが書けねえ小五って、一年からやり直してこいって感じだったわ。あれでよく六年にあがれたよな」
「うるさいなあ。今は書けるんだからいーだろ」
「ふふっ。そんなこと言って、あのとき一番熱心に俊哉に教えてたの、武流だったよねー」
「はあ⁉ そんな昔のこと、もう忘れたし」
顔を真っ赤にした神谷くんが、ふてくされたようにして机の上に突っ伏した。
(ほんと恥ずかしがり屋なんだから、武流)
ふぅん。神谷くんって、見かけによらず意外と面倒見がいいんだ。
そんなことを思いながら、一人わたしたちの会話に加わらない渡瀬くんの様子をちらっとうかがった。
渡瀬くんは、自分の席で黙々と本を読んでいる。
前の学校では、あそこがわたしの指定席だったはずなのに。
本当にいいの? わたしがここにいて。
聞いちゃいけない心の声を聞いて。
もっと距離を取るべきだってわかっているのに――わたしから離れてって言った方がいいのに、言えずにみんなと一緒に笑っていて。
言わなきゃバレない。けど……。
罪悪感で、わたしの胸はズキズキと痛んだ。
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