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それは、ちょうどわたしが絵を描き溜めたノートやスケッチブックの入っている段ボールで。
「ほら、これなら見てもいいよ」
春休みに描いたばかりのスケッチブックを引っ張り出すと、俊哉くんに差し出した。
その途端、目をキラキラと輝かせる俊哉くん。
「見てもいいのか? ありがとう、日菜」
これは、お父さんたちが海外に旅立つちょっと前に、「せっかくの春休みだから、旅行に行こう」って急に言い出して、隣の県の観光牧場に行ったときに使ったスケッチブックだ。
ポニーに乗ったり、ミニブタの芸を見たり、仔牛にミルクをあげたり。
一日遊んだあとは、牧場のすぐ隣にあるかわいらしいドーム型コテージにお泊りもした。
楽しかった二日間の旅行の間、あっちこっちでお父さんと並んで絵を描いた、思い出のいっぱい詰まったスケッチブックなんだ。
俊哉くんが、ぺらっ、ぺらっとページをめくっては、
「うわぁ、こっちはブタで、こっちは馬か。すっげーリアルだなー」
「オレも練習したらこんなふうに描けるようになるかなあ」
なんてつぶやいている。
そんなことを言われたら、ちょっと……いや、だいぶくすぐったい。
「じゃあ、おばあちゃんが帰ってくるまで、一緒に絵でも描いてみる?」
「描く!」
わたしが俊哉くんにたずねると、間髪入れずに元気な返事が返ってきた。
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