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「日菜ー。待って、待って。あたしも一緒に行く」
……追いつかれる前に、行っちゃおうと思ってたのに。
俊哉くんと言い争っているうちに、悠宇ちゃんが急ぎ足でやってきた。
悠宇ちゃんは、本当に優しくていい子なの。
だからこそ、悠宇ちゃんの心の声を勝手に聞いたりしたくないんだ。
だけど、俊哉くんとはしゃべるのに、悠宇ちゃんのことだけムシするなんて、わたしにはできなくて。
「うん。一緒に行こ」
なんて笑顔で答えている自分がいる。
「えーなんだよー。悠宇だけズルいぞー」
文句を言いながら、わたしたちのうしろをついてくる俊哉くんのことは放っておいてもいいんだけど。
「杉崎ってさあ、俊哉の母ちゃんみたいだよな」
今度は神谷くんまでやってきて、俊哉くんのことをいじりはじめた。
「ちっちっちっ。日菜は母ちゃんじゃなくて、オレのよ……むぐっ」
慌てて俊哉くんの口をふさぐと、ずるずると廊下のはしっこまで引っ張っていく。
「だ、か、ら! 学校でヘンなこと言わないでって言ってるでしょ」
(どうしてダメなんだよ。やっぱり、オレがみんなとはちがうからなのか?)
普段は、俊哉くんを差別しているつもりはない。
けど、わたしも心のどこかでは思っているのかもしれない。キツネと結婚なんかできるわけないって。
でもそれ以前に、わたしにとって結婚なんて、全然考えられないくらいずっとずーっと未来のこと。
恋だって、まだ一度もしたことがないんだから。
好きっていうのがどんな気持ちなのかもわからないのに、結婚なんて考えられるわけがないよ。
だいたい、わたしに会ってすぐ『オレの嫁にする』だなんて言った俊哉くんは、ちゃんとわかってるの?
どう考えたって、わたしのことが好きで言ってくれたわけじゃないよね?
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