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そのままダイニングまで行き、ドアをしっかりと閉めると、おばあちゃんが静かに口を開いた。
「今日は新月の日なのよ」
「新月?」
「そう。地球と太陽のちょうど間に月があって、地球から月が見えない日のことを言うんだけど。新月にはね、俊哉くんの持つ妖力が弱まって、人間に変化できなくなるらしいの」
「じゃあ、一日中キツネの姿のままってこと?」
そうたずねるわたしに、おばあちゃんがゆっくりとうなずいた。
「さっきね、わたしに見られたくないって、俊哉くんが言ってたの。……ううん、ちがうよ。聞いたわけじゃないの。ただ、わたしに見られたくないのかなって思ったの。だから、部屋から出てこないのかなって……」
普段は自分がキツネだっていうことなんかこれっぽっちも気にせず、ここでの暮らしをめいっぱい楽しんでいるようにみえる俊哉くんだけど。
やっぱり気にしているんだ。
絶対にわたしに見られたくないって思うくらい。
本当は、キツネの姿の俊哉くんも見てみたいって思ってるよ?
だって、俊哉くんの本当の姿なんだから。
だけど、わたしが心の声が聞こえるっていうことを他の人に知られたくないみたいに、俊哉くんが本当の姿を見られたくないっていうのなら、俊哉くんの気持ちを大事にしてあげなくちゃって思う。
無理やりドアをこじ開けることなんて、わたしにはできないよ。
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