リベンジマッチ

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「おおっとらん選手、張ったぁ」  通常は善玉からこのような奇襲をすることは無いが、今日は遺恨清算マッチ、これくらいは許される。冥王も負けじとらんの腹に膝を叩きこんだ。  カン、と試合開始のゴングが鳴る。  ヘッドロックを極めにかかる冥王。それを脚で蹴って回避し、クルックヘッドシザースにとる。完璧に極まれば首が折れる技だ。らんは脚の力を加減し、ケガにはつながらないところで中断した。  冥王はすぐさま関節技を抜け、至近距離からラリアットを放った。女子とは思えない剛腕が、首にヒットする。らんは身体を一回転させリングに転がった。受け身は完璧だったが、喉が痛い。  立ち上がったところを、ボディスラムで投げられる。さらに冥王は後ろに回り、らんをひきずり起こして後方に投げた。バックドロップ・ホールドだ。投げられながら、らんはさすが冥王と思った。頭から叩き落とすのではなく、きっちりと背中から落としている。職人技だ。 「バックドロップ・ホールド、決まったぁ」  解説が大声を張り上げる。  らんはリングにあお向けになりながら、チャーム真紀がいる解説席の位置を確認した。  カウント2.5で返す。  元々冥王もこれでフィニッシュとは考えていないのだ。ホールドはすぐに解かれた。  立ち上がったらんは立て続けにエルボーを放ち、冥王をコーナーまで追い詰める。  冥王の首に腕を回して固定し、らんはロープとコーナーを使って半回転した。スウィング式DDT。なるべく背中から落ちるように配慮はしたが、遠心力のついた技。冥王の受け身の技術にかけるしかない。  らんはぐったりと横たわった冥王をリング下に引きずり下ろした。冥王はきっちりと目を開けている。頭は無事だ。  ラフファイトを装い、チャーム真紀が座る解説席のテーブルに、思い切り冥王の顔面をぶつけた。バン、という音が会場にこだまする。 「冥王、リング下で動けない。さあ、らん選手、得意のムーンサルトかぁ。ん、階段を登っている」  解説が驚きの声を上げた。  らんは2階席のへりに立った。  下はちょうどチャーム真紀が座る解説席。  チャーム真紀。お姉ちゃんを殺した危険台本(ブック)、技の過激化路線、KEYの命を張った抗議。全てを無視し、所属選手に多大な苦痛を与えた罪にふさわしい罰を受けるがいい。  そして、願わくばこの一撃で、危険路線の愚かしさを再認識し、強く、美しいプロレス精神を取り戻してほしい。  らんは深呼吸し、2階からチャーム真紀が座る解説者席めがけてムーンサルトを放った。                                 完
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