直訴

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 ついに面談の日程がとれた。  らん達は15人で社長室の扉まで歩く。  今日ばかりはベビーフェイスも悪役(ヒール)も関係がない。混成部隊だ。試合とも、トレーニングとも違う緊張感が漂い、らんは先輩の直子と明の後ろをあるいた。先輩の存在がこれほどありがたいものだと再認識した。  直子がトントン、とノックをする。  少し置いて、 「どうぞ」  と返事があった。  15人は社長室に入る。  立派なじゅうたんが敷かれ、応接椅子があるが、椅子には定員オーバーだ。もとより、座って話すつもりはない。 「皆さんで、何の用?」  チャーム真紀が社長の椅子に座りながら余裕のありそうな声を出した。温和な雰囲気だが、目には狡そうな光が宿っている。長年プロレスラーをやってきた身体は一般女性よりも分厚く、耳はつぶれている。 「社長にお願いに上がりました」  直子が口火を切った。 「何かしら。ウチは他の団体よりギャラを払っているつもりですけど」 「ギャラの問題では無いんです」  チャーム真紀は白いものが混じった髪を一撫でして、何が問題なのか分からないというポーズをした。  明が加勢した。 「これ以上、危険技の応酬を止めて下さい。このままでは、また事故が起きますよ」 「それをしないために、あなた達は日々トレーニングをしているのではなくて」 「トレーニングも限界があります。受け身のとれない技はたくさんある。真紀さん、あなたも現役レスラーだったころに経験しているでしょう」 「私は全部受けましたよ。ケガは選手の責任です」  話し合いは決着がつきそうにない。 「元はと言えばりんが受け身を取り損なって事故を起こしたのが原因。トップレスラーに据えた私がバカだったわ」  チャーム真紀がらんに鋭い視線を送る。らんも姉のことを悪しざまに言われて腹が煮えくり返った。社長をにらむ。 「私が過激路線の台本(ブック)を書いたおかげで聖華の興行は回復した。これは厳然たる事実よ」  社長の言葉に、明が言い返す。 「KEYが身体を張って警告したのは無視ですか。女の子が顔面を8針も縫ったんですよ。過激路線も続ければ飽きられる。選手も大けがをして、試合に穴を開けるかもしれませんよ」 「何度も言ってるけど、それはひとえにに練習不足。文句があるなら違約金払って辞めてもいいのよ」  チャーム真紀の冷たい言葉に、逆に選手達がヒートアップする。今にもつかみかかりそうな若手を、直子が制した。 「特にらん、エースのりんが亡くなった今、あなたには大して期待してないわ。はっきり言って辞めてもらった方が事件の記憶は薄まるし、年俸も浮くのよね」  らんは頭に血が上るのを感じた。自分の中にこれほど強い感情が渦巻いていることに驚いた。  身体が勝手に動く。気が付けば社長の胸ぐらをつかんでいた。 「ここで私を殴れば暴行の現行犯で警察に電話するわよ」  チャーム真紀はあくまでも冷静だ。 「らん、もう止めろ」  明が二人の間に割って入り、社長に絡んだらんの腕をほどいた。  
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