11人が本棚に入れています
本棚に追加
りんは青いリングの真ん中であお向けで大の字に倒れている。青空に桜を散らしたような印象を受ける。
「りん、お姉ちゃん、立って」
コーナー下でらんが声を張り上げるがぴくりとも動かない。まぶたは閉じ、四肢に力が入っていないように見える。
冥王が腕を持った。途端に、怪訝な顔をする。すぐに腕を離すと、ばたんとリングに落ちた。
「ダウン。ワン、ツー、」
審判がダウンカウントを取り始める。
プロレスのルールは難しくはない。相手の肩をリングにつけ、スリーカウントを取る。これが普通だ。他には関節技や締め技でのギブアップ。20カウント以上のリングアウト。そしてKOされた場合の10カウント負けだ。
らんはこれほど遅いカウントを体験するのは初めてだった。早くお姉ちゃんの所へ駆け付けたい。
冥王は観客にむけ勝利のパフォーマンスをしているが、どことなく表情は暗かった。
「10」
ついにダウンカウントが宣言された。らんは保冷剤を持ち、姉が横たわるリングへ駆け上る。
「お姉ちゃん」
ぴくりとも動かない姉の頭に保冷剤を乗せる。りんの額には玉の汗が浮いていた。リングサイドから仲間の若手がどんどんとりんに駆け寄る。
冥王も勝ち名乗りを上げながらどこか心配そうにりんを見た。
会場からは喝采が起こる。しかしりんは深く目を閉じ、一向に開かない。
らんは姉の身体を揺さぶろうとしたが、若手に肩をがっしりと掴まれ阻止された。
「首の骨が折れていたらやばい。よくわからないけど、息してないと思う」
「嘘」
らんは絶句した。
華やかなリングの影で、らんはりんの身体を若手と一緒に控室まで運んだ。脱力したりんはじっとりと汗に濡れて暖かい。控室には救急車が停められていた。
「お願いします」
救急隊にバトンタッチして、らんは大きな不安を抱えながら控室まで戻った。
最初のコメントを投稿しよう!