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反逆計画
選手トレーニングルームはレスラー達の憤怒と悲嘆に満ちていた。
社長が過激路線を止めず、あまつさえその原因をりんの事故死と断言したのだ。
「くそっ」
一人が椅子を蹴る。
パイプ椅子はがちゃん、と金属的な音をして倒れた。
「マジで辞めてやろうかしら」
ベテランの選手が鼻息荒く言い放った。
「でも、違約金は契約金の3倍よ。軽く一千万は超える。あんた、払える?」
「くそぅ、無理だな。このまま満期まで飼い殺しということか」
「そういうの違法なんじゃない?」
「そうかもしれないけど、誰が弁護士立てて交渉するのさ」
口々にチャーム真紀への怨嗟の声と、まともだったころの聖華プロレスへの愛が語られる。
「りんが事故る前はね、本当に良かった。華麗で、しっかりとした技術に裏付けされた試合をしていた。みんな分かるだろう。りんの事故以来、社長は変わってしまったんだよ。過激路線で客を呼ぶ方向にかじを切ってしまった。ドーピングのような経営さ」
らんはうなずく。本当にその通りだった。
「誰かチャーム真紀に試合の痛みを再認識させてやればいいのさ」
「でも、KEYが捨て身でやって失敗したじゃないか。あれでも目が覚めないなら、試合中解説席に乱入して、ぶん殴るしかないんじゃないか」
「それはそうだけど、そうしたら試合が滅茶苦茶よ。お客さんに迷惑かけたくない」
らんは怒りの炎に身を焦がしながら考えた。試合の中で、チャーム真紀に復讐するにはどうしたらいいか。
ふと、ひとつの光明が見えた。
「ねえ、明さん」
ヒールレスラーのそでをつかむ。
「ん、何だい?」
「お姉ちゃんが死んだとき、何でもやってくれるみたいなこと言ったよね」
「えっと、記憶は定かではないけど、言った気がするよ。聖華辞めるなら違約金の肩代わりでも何でもやるよ」
「ううん、私は辞めるつもりはない。私は、次の、いつも私達がやっている樹体育館での試合、あなたとリベンジマッチをしたいの。それを、社長に提案して」
明はなるほど、とうなずいた。
「まあ遺恨清算というか、かたき討ちという形で試合は組まれるだろ。でもいいのか、今のチャーム真紀のことだ、半端じゃなく危ない台本が用意されるぜ」
「それが狙いよ」
「はぁ?」
「ちょっと耳を貸して」
らんは明の耳に唇を近づけ、小声で計画を話した。
「マジでやる気なんだね」
明の顔つきが険しいものに変わる。
「うん。お姉ちゃんの分も、今の選手の分も含めて、これが最高の仕返しになると思うの。チャーム真紀もこれだけの目に遭えば、自分がどんなに危険な台本を書いていたのか身体で理解するわ」
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