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リベンジマッチ
樹体育館での興行は、2階まで含めた観客席は満員御礼となった。
明が社長、チャーム真紀にお願いしたらんのリベンジマッチはすぐに実現した。こう言えば聞こえはいいが、姉を事故死させたレスラーとの再戦を、らんの心のケアを一切無視して挙行する。ここがチャーム真紀が選手を道具として見ている証左だ。
らんと冥王(明のリングネームだ)。の試合は本日のメインイベントに組まれた。台本も渡されている。らんは冥王のスープレックスを3回受け、攻めでは場外も含めたムーンサルトプレスを3回も放つ危険で、体力の限界に近い試合内容だ。
らんは控室で白地に濃いピンク色の桜があしらわれているコスチュームに着替えた。リングと客席の方から「わあっ」と歓声があがるのが聞こえる。派手な技が決まったのだろう。
それをいったん意識の外に置いて、目を閉じ、自身の試合のイメージを固める。スープレックスを受ける。コーナートップに登る。20分の試合を脳内で組み立てる。
組み立てながら、らんは冥王と約束したチャーム真紀への復讐計画を再度イメージした。KEYがリング方向から解説席のチャーム真紀を狙ったが失敗した。同じ轍を踏む訳にはいかない。
スポーツドリンクを飲み、軽く身体をストレッチしていると、若手が
「らんさん、あと10分で出番です」
と伝えてきた。
よし。行こう。
らんは気合を入れて、花道の方へ歩いた。
選手入場が始まる。
らんは華麗な入場曲とともに、ゆっくりとした歩調でリングへと向かった。トップロープに手をかけ、バク転するようにリングインするとより一層の歓声がわく。
らんは赤コーナーを背にし、花道を見つめた。
照明が桜色から紫色に変わり、ハードロックな入場曲が流れる。
「冥王、入場です」
解説が観客を煽った。
冥王星がプリントされたコスチュームをまとい、冥王がゆっくりと入場する。顔は真剣そのものだ。ゆっくりとリングをまたぎ、そのままらんのいるコーナーへ歩き出す。
らんも負けじと冥王の方へ歩いた。
視線が交錯する。らんと冥王はキスできる距離まで近づき、視線を飛ばし合った。
「おーっとこれはにらみ合い、この二人には因縁がある。さあどうなるか」
真澄さんの解説実況を聞き、らんは強く冥王の頬を張った。
パシン、という音が会場に響きわたる。
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