選手のせい

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選手のせい

 美月りんの葬儀は、会社を挙げて盛大に催された。美系で、アイドルのように整った顔立ちと、高いプロレスセンスに溢れた闘姿を持ったりんの元へは、たくさんの花束が手向けられた。  死因は頸椎損傷による呼吸停止。試合会場から救急搬送まで時間がかかりすぎたため、脳に不可逆的なダメージを負ってしまったというのが医師の見解だった。 「すまなかった」  線香の香り漂う控室で、冥王こと五月明(さつきめい)はらんに向かって土下座した。大きな身体が小さく折りたたまれる。対峙するのはらん一人。らんの母親は出産時に死亡。男手一つで育ててくれた父親もらんが18歳の時にがんで亡くなった。今回の事故でらんは近しい家族を全て失ったのだ。 「殺す気だったの?」  らんも同じプロレスラーだ。対戦相手を殺す気なんて一ミリもないと分かってはいるが、どうしても口に出てしまう。 「誓って言う。そんなことは無い。でも、あのパイルドライバーは私のミスでもあるけど社長の指示。前方落下は体重移動が難しくて、変な角度で落としてしまった。あんたは好きなだけ私を殴っていいよ」  そう言われると、逆に殴る気が失せる。らんは涙をこらえて、肝心の質問をした。 「あのメインイベント、台本(ブック)を書いたのは社長?」 「ああそうだ。チャーム真紀だよ」  明が断言した。  プロレスは真剣勝負、の反面、ショーとしての一面がある。試合を盛り上げるために、決め技や試合時間をあらかじめ設定しておく台本(ブック)が試合ごとに用意されている。 「あの場面には、台本(ブック)があった。私が得意技2発、それをキックアウトしてりんが決める」  明が絞り出すように言った。 「具体的には私がドリル・ア・ホールパイルドライバーから、抱え上げての横投げ(デスバレーボム)。それを返したりんにヘッドロックをかける。そしてりんが後ろに回って私に起死回生のジャーマンスープレックス。立ち上がれない私にコーナートップからのムーンサルトプレスで3カウント。りんの逆境からの逆転で試合終了という流れだったんだ」 「あなたはこれからもリングに立つの?」 「うん。私ががんばることが、りんに対する弔いと、謝罪だと思っている」  本心だろう。  らんは明を、心の片隅ではあるが許そうと思い始めていた。  半面、姉を失った怒りをどこかにぶつけたかった。いくら台本(ブック)とはいえ、あんなに危険技を出させていいのか。  契約終了後、また聖華に残留するか。  今までは「はい」と即答できたが、今ではよく分からなくなってしまった。
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