朝から真夜中

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 ナイはそれから私を愛玩動物のように愛でた。  朝起きて摘みたての木の実を用意したり、柔らかな布の暖かい服を着せたり、髪をくしけずっては編み、編んではほどく遊びもお気に入りのようだ。  本を読み聞かせては字を教えようとすらした。  スーイ、スーイと甘く呼ばれてるたびに、私は焼き払われた村の事を少しずつ記憶の奥の方に押しやることができた。    ナイはどこへでも私を連れて行った。  高い木にも登ったし、青い花ばかりが咲く洞窟にも入った。  大きな滝の裏側を歩いたり、私に美しい物を見せたがった。 「昔、娘に会った。石をくれるといったが森の外に帰ってしまった。あれも名前を付ければよかったのか」  ナイは木陰で私を膝の上に置いて、髪を撫でつけながら昔話をする。  ナイの言う昔がどのくらい昔かも分からない。 「ナイ、あのね、石をあげるというのは、命もあげるという意味なのよ」  私はほんの少しだけ石の秘密を洩らした。 「なるほど、そうか。あの娘とて、命は惜しかったのだろうな」  ナイと私の「命をあげる」の意味には齟齬(そご)があるように思えたが、今はそれ以上説明するのが(はばか)られるような気持ちだった。  ナイに石をあげるといった乙女がいたのかと思うと、どうにも落ち着かない気持ちになる。  私の部族には秘密があった。  部族の女は石を一つ身に宿して生まれてくる。それは体の一部として共に育つものだ。  私たちが盗賊に狙われるのは、体から離れたその石が都でたいそう高値で売れる為だ。    破瓜を迎えると身から離れる石が、まだ私の身にはある。  私の石を狙って家族は襲われたのだ。  賊は私だけを生かしておけばよかったのだろう。  一家の中で身から離れていない石を持っているのは私だけだった。  家探しをされて、母の石や祖母の石はきっと奴らに奪われてしまった。  
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