朝から真夜中

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 あれから月は痩せ、また満ちる。  森にはいつもはない怒号が飛び交っていた。    ナイが賊が家の近くまで来ているのに気がつかないわけがない。  家を取り囲まれたところで、いつものように私を抱いて外に出た。  蛙は、面倒そうな顔をして元の蛙の姿に戻り、ぽちゃんと水音をさせて水桶の中に飛び込んだ。  我関せず、ということなのだろう。  案の定、私たちを襲った盗賊だった。  もう一月も経つのに執拗に探し回っていたのだろうか。 「石の娘を渡せ。それは俺達の獲物だ。俺が取り出してやる。じっくりとな」    賊の頭領らしい男が弓矢でこちらを狙っている。 「それは叶わない願いだな。この娘は俺に石をくれると言っている」  ナイは心臓を狙われているのに、いつもと変わらない力の抜けた調子で賊に向かう。 「へぇ、その調子じゃぁ、まだ石は取り出してないと見える。どうやって外すのか知らないんだろう? 心配ない、俺たちに任せておけ」  ナイはあれ以来どういうつもりなのか、私の石をくれと言わない。  命を、と言ったので、石を取り出せば死んでしまうと思っているのかもしれない。 「粘って探した甲斐があったな。三個も一度に手に入れば、俺たちは一生遊んで暮らせる。それにしても、こんな森深くに隠れていたなんてなぁ。石を取り出すために寝台が要るな、家を焼いちまって失敗だったか。食料だけは外に運び出したんだがなぁ」  下卑た笑いがおこり、じくじくと喪失感が戻ってくる。 「無理を通すなら、今、ここで命を絶って見せるわ。私が死ねば、この石はただのゴミに変わる。(かたき)の手に渡るくらいなら、この石と一緒に滅びたってかまわないって誰もが言うわ」  ナイの手を振り払い、一歩前に出て盗賊をにらむ。 (殺される前に一人ぐらい、道連れにしてやる)  ぎりりと奥歯を噛んで、勇んで足を前に出す私を、ナイは盗賊から遠ざけるように引き戻す。 「いや、それは俺が困る。俺はその石が欲しい。なあ、スーイ、どうすればいい? どうすれば石が手に入る?」    私はナイに助けられた時、石の取り出し方なんか伝えずに、ナイに胸を引き裂かれて家族の後を追うつもりだった。ナイは私を殺さなかった。今の私は、石をナイにやってもかまわないとすら思っている。 「ナイ、本当にこの石が欲しい?」  ナイを見上げると、真夜中のような目が私を見返す。 「欲しい。とても」  おかしが欲しいとねだる子供みたいな言い方をするナイに笑みがこぼれる。 「では、私に愛をこめて口付けを」
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