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ゆっくりと目を開ける。そっと視線を動かせば、開いた窓から風が吹き抜け、カーテンを揺らしていた。
(……わた、し)
そっと起き上がると、腰の痛みに顔をしかめる。が、痛みをこらえて室内を見渡す。
今までカーティアとして生活していた部屋とは、全然違う。……あぁ、そうだ。
(そうよ。私、娼館に落とされて……)
昨日、ハジメテの客を取ったのだ。しかも、その客は元婚約者である王太子の側近の一人。もう、どういう反応をすればいいかが、わからない。
「今後、あのような行為を不特定多数の人としなければならないのね……」
ぽつりとそう言葉を零すと、虚しくなった。あんなにも辛くて苦しい行為を、好きでもない人とする。……おかしくなってしまいそうだ。いや、いっそおかしくなったほうがマシなのかもしれない。
おかしくなれば、少なくとも自分の置かれている場所が、わからなくなるだろうから。
「……そういえば、ヴィクトル様は……」
視線を彷徨わせるものの、この部屋の中にヴィクトルはいない。……やることをやったので、帰ったのかもしれない。むしろ、その可能性のほうが高いだろう。
「そちらのほうが、いいのよね。彼の狙いがなんであれ、目的は達成できただろうし……」
ぎゅっと毛布を握って、カーティアはそう呟く。彼の目的ははっきりとはしない。ただ、わかることは。
彼が、大金をはたいてカーティアのハジメテを買ったということくらいだろう。……ちっとも、嬉しくはないが。
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